2008-01-01から1年間の記事一覧

忘れられたもの、交わすもの

「あ・・」 その時、彼女と私の声が揃った。 座席に残された一抱えもある大きな白い布のスポーツバッグには、誰かの背中がそこにあたっていたのを示す丸い窪みがついていた。 「誰?」と、右を見た。 扉の辺りに該当者はない。 そのまま更にぐるっと後ろへ首…

街灯ともる

夜。 寒さでふと、目がさめた。 カーテンの向こうがほんのりと明るくて、透き通るような虫の声が光っている。 秋の声は薄い花弁を幾重にも重ねた花が開いていくのを息を潜めて目撃しているときに似て 音がするのにとが無いような気がする。 小さな風が窓の脇…

「あれ」はどう駐車するのか?

「あ!」 運転席の彼女が叫び、急ブレーキを踏んだ。 「見た?」言いながら彼女が助手席の窓を指差す。 「あ!」 思わず助手席の窓から半身を乗り出し、見送り、「見た!」と叫ぶ。 「あれ、『あれ』よね」と運転席を振り返る。 「夢じゃないよね、ほんとの…

のんべ気取ってちびちびと

すこしくすんだ赤い葉の間からつややかな紅い実が覗いている。 金木犀の香りも遠くなってきて、土がまた甘い香りを醸しだしてきた。 赤いテーブルクロスの上、あかいりんごが3つ。 冷蔵庫を空けたら赤ワインがあった。 午前10時。 ROMBAUERのZINFANDEL2002…

「もう遅い」は本当か?

「実は・・・」と、電話の向こうで彼が言う。 勉強はたくさんしてきた。 社会的な地位基盤も頑張っていたら付いてきた。 でも、ふと考えるとみんなに比べるて恋愛経験が少なくて、 これからも他の人との差は埋められないのではないか。 自分に自信がなくて、…

今を一緒に

目覚めると肌寒さにぶるっと震えた。 そろそろ布団も秋冬に向けて衣替えの季節のようだ。 外へ出ると今日は蝉の鳴き声が全く聞こえない。 1匹くらいいるのではないかと白く曇った空を見上げると、 どこからか金木犀の香りがした。 やわらかい土の匂いもする…

昨日、猫が死んだ

昨日、一匹の猫が死んだ。 灰色の柔らかな5〜6センチの毛が全身を覆っていて、 遠目からもとても賢そうな綺麗な顔をしていた。 黒々としたアスファルトの上、行き交うヘッドライトに照らされた中央の白線の上で 猫はぐったりと体を弛緩させ横たわっていた…

甲子園に・・・

真っ黒な土に膝をつき、四つんばいになって肘をつき、 腕をワイパーのように動かして左手に持った袋へ土を入れる。 両手で地面を押さえつけるように、涙を地面に溢しながら 必死で土を掻き集める。 その選手たちの前で薄い緑がかったつばのある帽子にオレンジの…

蝉の静けさ、にぎやかさ

蝉の声がにぎやかだと思ったら、今日は涼しい。 この所、暑いわりには蝉の声が少なく、不思議だ。 偶然私の周りで蝉が少なかったのかもしれないが、 蝉にとっても最近の暑さは堪えたのかもしれない。 もし、他の人にとっても蝉の声が少なかったのだとしたら…

暑さにげんなりしています

人間には汗をかくための仕組みがこれだけあるのか。 人はこんなにも水分を持っているのか。 と、日々思う。 思ってもみなかったにも汗の噴出孔があり、「人の体って凄いなあ」と、 自分ごとながらに観察してしまう。 ただじっとしているだけでも、プールで泳…

夏の涼

ふっくらとした花びら型をした月が地平線の上辺りを朧に漂っている。 湿り気のある風が、触れた瞬間の熱さと通り過ぎてゆく涼しさを残して去って行く。 蝉の声がジージーと風にまとわりつくように聞こえて、夏の真っ盛りにいることに ふと気づく。 昼のうち…

雪の日

見上げると大きな雪の塊が、睫毛に被さる、髪にかかる。 一片の雪が地上へ落ちてくるのを目が追う間も無数の雪が降り積もっていく。 睫毛に掛かった雪は、重みに何度か瞼を瞬くとフッと溶けて消えてしまった。 雪の降る日はいつもどこか忙しなく、音もなく降…

夏の涼

ふっくらとした花びら型をした月が地平線の上辺りを朧に漂っている。 湿り気のある風が、触れた瞬間の熱さと通り過ぎてゆく涼しさを残して去って行く。 蝉の声がジージーと風にまとわりつくように聞こえて、夏の真っ盛りにいることに ふと気づく。 昼のうち…

宮古島で会ったもの

「昨日まで暖かかったんですよ」と、タクシーの運転手さんが言う。 半袖を着た宮古島の人達は、予想外の寒さに皆寒そうにしている。 運転手さんの袖から覗く腕にも、しっかりと鳥肌が立っていた。 車の免許は2年前にとったきり。 運転技量は命が幾つあって…