今を一緒に

目覚めると肌寒さにぶるっと震えた。
 そろそろ布団も秋冬に向けて衣替えの季節のようだ。
 
 外へ出ると今日は蝉の鳴き声が全く聞こえない。
 1匹くらいいるのではないかと白く曇った空を見上げると、
 どこからか金木犀の香りがした。
 やわらかい土の匂いもする。
 
 もうすっかり秋の中にいるのだと数歩歩いた瞬間、
 ビビビビビと、地面で油蝉が旋回しながら大声を上げた。
 驚いてひっくりかえった声が勝手に喉から出てしまう。
 夏はまだ終わりきっていないと蝉は威勢を上げた。



 こんな寒い日は家にいたい。
 そして、1人でいるより誰かと話したいと思うのだろう。
 朝から2時間おき程で電話が掛かってくる。
 1件終わるとまた1件。



 まるで電話が終わるのを見計らったようなのに、みんなその時が1コール目。
 不思議に時間が噛み合っている。
 休日なのに1件も電話は来ないなんて日もたまにあるのに、
 来るときは電話とメールがどんどんやってきて「久しぶり!」を何回言うのだろうと
 首をかしげる時もある。
 
 きっとそれは逆の事もあるんだろう。
 私がAという人のことを思い出すとき、面識もない別の人もAという人を思い出している。
 誰かを妙に思い出される日、そんな日があるのじゃないかって
 そんな気がする。



 電話をかけとき、相手にとってもちょうど自分が思い出される時だった。
 そんな時はちょっと嬉しい。
 そろそろあの子に電話をしようかな?なんて時に相手から掛かってくると
 顔が尚更ニコニコしてしまう。



 「懐かしい」と言わないで、「今に」いるのよ。
 友達だけど「過去」じゃないのよ。
 
 そんなことをお互い言わずに確認している。
 そんな気がする。