甲子園に・・・

 真っ黒な土に膝をつき、四つんばいになって肘をつき、
 腕をワイパーのように動かして左手に持った袋へ土を入れる。
 両手で地面を押さえつけるように、涙を地面に溢しながら
 必死で土を掻き集める。
 その選手たちの前で薄い緑がかったつばのある帽子にオレンジのリボンをおそろいに
 付けた報道陣が大きなカメラを持ち、地上30センチの選手たちの泣き顔を正面から
 見上げるようにシャッターを切る。



 胸まで黒く染まったユニフォーム。
 黒々と日焼けした顔の中に紅くなった目が見える。
 下を向く肩が、土を掻き集める指が震えていた。



 ピッチャーは最後の一瞬も投げていたいというように
 引き上げながら何度も何度もメンバーと白球を投げ合い、
 悔しさをそのままに泣いている。



 反対側のベンチでは土を集める彼らを複雑そうに見ながら、
 土を集めなくともまたこの土を踏めるのだと喜ぶユニフォームの群れ。
 
 ベンチに入れずとも笑い、叫び、激を飛ばすアルプスの大勢の部員たち。
 彼らが行けなかったグラウンドで勝ち、負けたチームメイトと泣いている。
 
 点差が開き悲壮感漂う顔をしていたピッチャーが、代打の打点に見事に
 顔を輝かす。
 彼がずっと投げていたらどうなったか。
 ベンチにいて、出れるかもしれないと直前まで用意していた部員もいただろう。
 活かされた部員も、出られなかった部員もいただろう。
 勝った側にも、負けた側にも。



 冷静に抑制の効いた球を投げ続けるピッチャー、 
 守備の彼は、難しい球へ伸び上がり、一瞬の迷いも無くホームへとボールを投げた。
 どれだけの苦しさをキャッチャーは受け止めたか。
 遠くへいるか、近くを守るか。
 監督も、部員もみんな必死で、夢中で・・・
 最後の校歌の時にはどちらに気持ちが片寄るのかもわからず泣かされてしまう。



 報徳学園智弁学園の試合はどうなるか、胸が痛くなる切なくて
 とても良い試合だった。
 私は五輪より甲子園の方が夢中で見てしまう。
 平日も見ることが出来たらいいのに。
 
 試合だからどうしても勝ち負けがでてしまうものだけれど
 それが辛くもあるものだけど
 一心に甲子園の為に自分を高めている彼らを。
 その努力があきらかにその血肉なって現れているのをみると
 自然に頭が下がる。



 あの走りや、バットのスイングや、守備はどれだけの継続から生まれた動きなのだろう。
 野球のことはあまりわからないのだけど
 アルプスで応援する人、グラウンドの審判も、選手もみんな心から尊敬しています。



 甲子園という時間は一瞬かもしれないけれど
 一瞬が永遠でもあることを教えてくれるものだと思う。
 
 あぁ、次の週末が待ち遠しい。
 きっとまた泣いてしまう。
 平日の試合もほんとに見られたらいいのに