雪の日

見上げると大きな雪の塊が、睫毛に被さる、髪にかかる。
 一片の雪が地上へ落ちてくるのを目が追う間も無数の雪が降り積もっていく。
 睫毛に掛かった雪は、重みに何度か瞼を瞬くとフッと溶けて消えてしまった。
 
 雪の降る日はいつもどこか忙しなく、音もなく降り続くそのために
 雪を踏みしめる音のような切なさが押し寄せてくることがある。
 だからなにということもないけれど。



 目の前の交差点をポメラニアンを連れた人がいく。
 寒そうに肩をすくめた人が、
 豊かな毛皮に覆われた小さな肩をすくめる犬を連れている。
 肩をすくめているせいか、ポメラニアンの一歩一歩の歩幅は狭い。
 毛足の長いふわふわとした鞠のような塊が小さなつま先をできるだけ雪にふれさせぬように
 ちょんちょんと細かくはねるようにして歩く。
 二足と四足。
 人と犬。
 冬の寒さはお互いの散歩のペースが変えてしまう。
 我が家に犬がいた時は気づけなかった種の相違に気づくと、当時がちょっと申し訳なくなってくる。
 
 寒い日の散歩は早足で、ぐいぐいと引き綱を引いていたような気がする。
 気づくのも、今となっては遅すぎるけれど。
 
 雪は音もなく降り、つもり、白に白を降り重ねてゆく。
 誰もがなにも話さず、小さく吐く息の音だけがたくさんの人が
 そこにいることを知らしてくれる。
 淡々と世界を染めていく白が、まるで時間のようで
 昔を振り返っても、前を向かねばいけないのだと、厳しく、叱咤してくれている
 様な気がする。



 小さな自分がいぬの散歩をしている光景が瞼をよぎった。
 積もる雪を踏みしめ、白い息を吐きながら、家へ帰った。
 
 そんな日もある