公衆電話に呼ばれたら。



 駅からの帰り道。

 突然、黒電話のような音がした。
 何回も鳴ったのに全然止まる気配がない。
 いくら気長でも電話だったらここまで相手を待ちはしない。
 一体何の音だか気になった。
 
 もう少し行けば新聞の集配所がある。
 もしかしたら、
 新聞配達の誰かの目覚ましの音かもしれない。
 朝掛けたまま忘れて行ったのかな?
 音がどこから来るのか気になって
 小さな坂道を登る足を少し早めた。

 集配所の前には着いたけれども、音は中から聞こえてこない。
 まだ新聞を配っているのか、それとも終えたせいなのか
 集配所は真っ暗だ。

 じーんじーんと鳴る音は確かに耳に響いているのに、
 一体どこから聞こえてくるのか?

 考える私の後ろを自転車が抜かしていった。
 油が少し不足しているのか
 ギッギッとおじさんの足元から音がする。
 一緒のリズムでジーンジーンと音が聞こえる。
 「もしかしたらこの音だったかな?」
 なあんだ。
 のんびりまた坂を上がる。
 
 ところが、おじさんが坂の上に消えても音は止まない。
 私が近づくのと比例して音はどんどん膨れていく。

 そういえば、防災訓練で聞いたベルの音にもよく似ている。
 今度は「何かボヤでもあるのじゃないか?」って小走りになった。
 
 ボヤは杞憂で
 坂を上がりきるとコンビニ前の公衆電話の脇で
 コンビニのアルバイト店員が二人悩んでいた。
 「鳴っているんだから受話器を取って!!」
 私の心の声をほうって、
 鳴る公衆電話を気味悪そうに遠巻きにしていた店員は、
 電話局に電話するのかあたふたと店内に駆け込んだ。

 私は機を逃さずに走っていって受話器を下ろした。
 音は止まった。
 50m以上向こうから聞こえた音は、
 ただの受話器が外れた音だった。

 私が公衆電話が鳴るのを聞いたのは
 今日を入れて3回目。
 受話器が外れて鳴っていたのは、今日が初めて。

 前回、前々回はどこかからの電話だった。
 前回は大学の構内。
 前を通ったら突然鳴り出した。

 電話の相手は「奈良さん」といった。
 携帯にかかってきた番号にコールバックしたとのこと。
 ・・・・公衆電話って受信できたんだなんて思いながら、
 数分話して
 「多分混線してるんだと思います。もう一度試してください」と電話を切った。
 すぐ掛けなおすと言っていたのに掛かってこなかったところをみると、
 奈良さんは掛けたかった番号に掛けられたようだ。
 
 前々回は、どこかの電話BOXの中。
 確か当時大好きだった歌舞伎のチケットを取ろうとBOXに入った瞬間、電話が鳴った。
 故障がないか調べているのだとその人は名乗った。
 たまにあちこちの電話に掛けて、回線がおかしくなっていないか調べるのだとか。
 偶然私が取ったので向こうも驚いていたことを思い出す。
 普通は気味悪がって取らないのと、電話のベルが鳴るかならないかで切るらしい。
 条件反射で受話器を取って、少し世の中を知った。

 そういう人がいるから、日本の公衆電話は安心して使えているのだ。
 当時は携帯を持ってる人はほとんどいなくて、
 みんなポケットベルの時代(私は持ってなかったけれど)。
 公衆電話がおかしくなるのも思っているより多かったよう。
 (電話を掛けようとしたら、押せない番号があったりも)

 海外の公衆電話は、基本的な機能として受信できるようなものもあるけれど・・・
 日本にいては(昔のピンク色した電話は出来たかもしれないけれど)、
 まず鳴ることはない。
 
 もし、あなたも呼ばれたら
 是非、取ってみてはいかがでしょう。
 もしかしたら、面白い話が聞ける・・・かもしれません。
 公衆電話の音、聞いたことはありますか?