雨戸を閉めねば・・・

 昨日台風が行ったと思ったら、すぐ次が控えていた。
 あのカトリーヌよりも大きい(?)と言うことと、
 災害の日ということもあってTVは地震と台風の話をしている。
 
 昨日の被害状況も流される。
 嘘のような災難に襲われている人もいた。
 
 ・・・一昨日上京して、昨日引越しを済ませて、
 今日は仕事の面接予定だった人が、
 荷物の紐も解かないうちに泥だらけになった部屋の中で
 呆然としてインタビューに答えていた。
 水浸しの床の上には、今日彼が着ていくはずの服がぐしょぐしょになって落ちていた。
 
 明日、もっと大きいと言われている台風がきたらどうなってしまうのだろう。
 家が水没してしまった人たちは、今夜どこに寝ているんだろう。
 すこしづつ寒くなって、夜布団なしでは肌寒い。
 ぐっしょりと濡れた家は底冷えがするし、健康にも悪い。
 何より、昨日のものより大きい台風がいつ来るか、
 今度はどうなってしまうのかと気が気ではないだろう。
 家が水浸しになった人の家は、漏電が不安だろうし、
 TVもパソコンも壊れたり具合が悪くなってるはず。
 台風に関しての情報は、その方々の元まできちんといっているかしら?
 どうか皆さんが暖かいお布団で、安心して眠れているといい。
 
 夕方、明日の台風情報に促されて隣の網戸を閉めに行った。
 昨日は大丈夫だったようだけど、ニュースを見ていて不安になったよう。
 こんな時、若者は辛い(笑)
 勝手知ったる隣のお家の、普段使われていない奥の和室。
 電気も点いていなかったけれど、まだ外は若干明るい。
 「まあ、点けなくても大丈夫」と
 ほとんど閉められていないような雨戸をギシギシ言わせて引き出す。
 埃っぽさが喉を刺激する。

 昔ながらのあまり使われていない雨戸は、
 重いうえに閉めるのにはちょっとしたコツがいる。
 最近の引き戸のようにするするとは決して動かない。
 木で出来ているから木が湿気で脹らんだりするせいだ。
 
 うんうんと言いながら、ぐいと雨戸を閉める。
 しまると一気に暗くなる。
 「さてもう一枚」と、雨戸を引き出した途端、
 左手の上に何かが
 
 ぺた。
   っと引っ付く
 むにゅり。
   と感触!
 
 電気をつける手間を惜しんだ上に、雨戸は殆ど閉められて部屋は真っ暗。
 手から更に畳にに落ちた何かがボテッと音を立てる。
 一瞬の声にならない衝撃のあと、よくわからない音が私の口から発せられていた。

 電気・・・電気・・・
 何が落ちたか見なくっては気がすまない。
 慌てると
 自分の家の間取りではないのでスイッチの場所が一瞬行方不明になる。
 今、確かに、何かの吸盤が手に乗った!
 結構重みがあったけど・・カエル??

 暗闇の中での驚きは、冷静な判断力を失わせる。
 雨戸の上に乗るほど高い場所にいるカエルは、我が家の辺りにはいない。
 せいぜいのそのそ地面を這う蟇(ひき)だけだ。
 
 真っ暗な部屋の中で、
 右手はスイッチを捜して壁をなぞり、
 左手は変な感触を飛ばそうとバタバタと振っていた。
 振ったって感触なんて飛ぶものじゃないのにね。

 明かりが点くと、窓際のレールの上に大きなやもりがいた。
 家の辺りで見られるヤモリは、大抵5〜6cmの白い赤ちゃんヤモリが殆ど。
 彼は、私が今まで家の辺りで見た中で一番大きかった。
 残念ながら定規が無かったけれど、25cm位もあったのだ。
 日本のやもりってもう少し遠慮深いサイズじゃなかったかしら?

 あの家の主に違いない。
 雨戸を閉めなおすために近寄ると、彼はするりと庭へ出て行った。
 念の為、戸袋の辺りを外からトントンと叩くと、
 一回り小さいヤモリが出てきて、これもするりと外へ行ってくれた。
 生き物は案外メスの方が大きいものが多いから、
 さっき出て行ったのは「彼」ではなかったのかな。
 
 うっかり彼らを雨戸で轢いてしまわなくて本当に良かった。
 
 雨戸の戸袋は彼らの暖かな家だった。
 あれだけ大きくなっているのだから、余程住みやすかったに違いない。
 台風さえ来なければ私も彼らの団欒の場を壊すことをしなくて済んだのに・・・。
 台風の余波は、こんなに小さな家族達にも驚きを与えてしまった。
 まあ、彼らは何とかしてくれるでしょうが・・・

 台風が来なければ、水不足になる。
 台風が大き過ぎれば水害がある。

 昨日の雷で友人の家のエアコンは止まってしまった。
 どうか明日の台風は、せめて雷が少ないように。
 水が出ても、浸かっても、感電の不安がないように。
 
 今、台風が通過している辺りの方々も、どうか被害が少しでも少ないといい。


 尚、御存知だとは思いますが写真はヤモリじゃありません。