ほんの1%も・・・

黒々とした鏡のような池面を
 小さなカイツブリがゆっくりと横切ると
 街灯の明かりに照らされた細波が白々と浮き上がり黒い池に溶けていく。
 
 樹上から響く無数の虫達の声に
 鼓膜が痺れてくらくらとした浮遊感に襲われた。
 虫たちの奏でる涼やかな音は様々に混ざり、広がり、
 どの一匹が鳴き始めたのか鳴き終えたのかなんていつまで聞いていてもわからない。
 
 高い鈴音のような虫達の歌が公園に満ち溢れて息苦しい程だから
 帽子かなにかを振るえば
 降る声を帽子につかまえて持ち帰ることが出来る気がする。
 
 こっそりと持ち帰って静かな家の中で音を放すことが出来たら、
 とても素敵な気がする。
 
 昔、空気の缶詰というのがあったけれど
 あれはやっぱり少し眉唾
 缶を開けるより、缶を見て思い巡らすほうがいい。

 捕まえることが出来ないけれど、捕まえてみたいものは沢山ある。
 
 朝焼けの光を浴びた雲。
 雨の後の日差しを浴びた蜘蛛の巣の滴。
 梢をくすぐるようにゆする風。
 シュンシュンと鳴るやかんの音。
 夕暮れの赤みがかったクリーム色と青の重なる空。
 赤ちゃんのふっくらとした微笑み。
 楽しげな足音。
 葉っぱの上に落ちる雨垂れの音。
 水から跳ねた魚の輝き。
 昔ながらの重いカメラのシャッターの感触。
 お祭りのざわめき。
 夢でみた世界の姿。
 夜の静けさ。
 
 沢山、沢山。。。

 どれも
 決して同じものがない特別なもの。
 手に入れたくても手に入らない。
 人間が、手に入れたと思える物なんてきっと
 特別ばかりの世の中の、ほんの1%もないのではないかしら。
 そんなことを考えた