初夏
強くなった日差しを木々の葉が弾くと、鈍い金属のような不思議な光り方をする。
椿科の艶々とした葉っぱなどを見ていると、
植物にとって油の乗り切った季節というのは今なのではないかと思う。
風が、若葉の間をすり抜けて行くと、パラパラ、ざわざわと、音を立てる。
葉の柔らかな季節はもう、
風の行く道を音が追いかけてゆく時に変わっている。
小さな枝が大きく動くのを目で追っていると
周りの枝が別の動きをしているのに気がつく。
そして、小さな動きから目を離した瞬間、
木全体が同じ方向へ動こうとしているのがわかる。
山笑う季節が過ぎ、
風が行くたび、葉が光るから、風光る季節なのだろうけれど、
くすぐったそうに葉が軽やかな音を立てるから。
ざわざわとさざめいて、風の行くほうへ、風の来た方へ、
伸びやかに動いているから。
今を「風笑う季節」または「梢の笑う季節」とでも名付けたい。
と、そんな風に思う。
春先の、自分の中にワクワクと湧いてきたエネルギーが、
押し寄せてくる風に添うように、逆らうように、伝わって出て行くような気がする。
風に乱されてゆく髪の先から、蹴りだす足の先から、
動くたびに「何か」のエネルギーが伸びやかに何処かへ伝わっていくような気がして
何だか楽しい。
どこかの「何か」
枝の先か、犬の蹴りだす脚先か、それとも別の何かからなのか。
とにかく何処かの何かが発散させている「何か」のエネルギーを受け取りながら
「何か」のエネルギーを自分も世界へ供給している。
そう、そんな気がして妙に楽しい。
季節が初夏へと移るように、
春とともになぜだか湧いてきていた
自分や周りのエネルギーがピンとした方向性を持って伸びていっているように感じる。
これは日本が季節のある国だからなのかしら。
それとも常夏、常春の国であっても、
カレンダーのこの時期には同じような「何か」を感じているんだろうか。