旭山動物園 1 (動物園の動物以外)



 旭山動物園は心臓破りの坂だらけと聞いたけれど、特にそれほどひどくない。
 確かに坂は多いけれども楽しむよりも回りきることをメインに置くのでなければ、
 それほど辛い高低ではない。



 ツアーの方が1日目の予定を前倒しにしてくれたお陰で、
 棚から牡丹餅、動物園に掛けれる時間が2時間からぐんと伸びて3時間。
 これは嬉しい。
 
 東門へ10時に到着。
 数十人の方が待ってはいるものの、息苦しいほどの人混みという物はない。
 団体客は小さな垣根の入り口のような所を通ってテクテクと入園。
 この際、通らない個人客用の入り口脇にはもぐもぐテラスがある。
 テーブル同士の感覚が緩やかに空き、
 70人位は入れるのじゃないかと思うほどゆったりとしているカフェテリアだが、
 お昼時は入り口に40人近くの長い列が出来ていた。
 当然私は入店していないけれど、どうしても行きたいならば入園と同時にをお勧めする。



 西門の焼きたてパン屋は小さな間口のお店で、5〜6種類のパンを売っている。
 一人で15〜20個程も買って行く人がいたりするので結構人気店だと思う。
 スタッフの方に動物園で食べるなら?と伺ってもここを教えられた。
 個人的にはメロンパンは悪くないが、アップルパイはアップルが少なすぎてしょんぼりだった。
 たった2名で回しているお店なので、物により違いが出てきてしまうのかもしれない。
 因みにこちらも行列だが、この行列は20人ほどが10分程度で解消した。



 尚、東門の外にも小さなバラックのような「雪の村」だか「雪の子」いう食事処があり
 空いていてガイドさんや運転手さんが疲れを癒しているが
 ・・・ラーメンは正直あまり美味しくなかった。
 けれど、店内は一部物産ショップになっており、
 荷物に余裕と体に体力があれば1キロ200円〜300円で
 北海道産の様々な品種のお米が売っていたりして面白い。
 お酒呑みの方には男山酒造が使っているというナナツホシというお米をお土産に上げてしまうのも
 一興ではないかと思う。



 尚、お手洗いは様々に点在するが、大きな建物の中は混み、
 ログハウス風の小さなものは比較的空いているようだった。
 混んで困るようなら、門外へ出るのも一つの手段だ。
 
 門外へ出る場合は再入場スタンプを手の甲にしてもらうのだが、
 これはブラックライトかなにかで照らす透明な塗料で押されるので、
 見た目には普通の手の甲と同じだ。
 自分の手にスタンプを押されるのが嫌だという人も抵抗無く押してもらうことが出来ると思う。
 その心配りが非常に嬉しい。



 動物園の中に入ると、出入り口は小高い丘の上にあり、
 長い下り階段の向こうに動物たちのいる建物が見える。
 
 階段の上に置いてあるもぐもぐタイム掲示板はチェックが必須だが、
 階段を下りる間にも、既にこの動物園の良さが見える。
 この階段は丘の下から上に真っ直ぐに伸びているのだけれど、
 ぐねぐねと蛇行したなだらかな坂がその階段の要所要所と交錯しながら伸びているのだ。
 下から見たら階段が串団子の串に、団子の輪郭が坂に見えるのではないだろうか。
 坂道はゆっくりゾーン(ゾーンだったかロードだったか)と名付けられ、
 車椅子の方などが安心して降りてゆけるようになっている。
 車椅子の方を誘導する道というのはよくあるけれど、
 車椅子専用などと書かれていて私はあまり好きではない。
 
 その道を「ゆっくりゾーン」と言い換える。
 そんな所にこの動物園の全てに共通する思いやりを感じる。
 
 この動物園の掲示は全て呼びかけ式で、
 雑誌の見出しのような所がある。
 例えばペンギン舎でに貼られたポスターの大見出しには「ペンギンは南の鳥だ!」と書かれ、
 世界各地のペンギンたちの実物大の絵が伸びやかに描かれている。
 
 考えてみれば、絵というのはぬくもりのあるものであるのに、
 動物園を始め、博物館などでも写真を使った平面的なものが多い。
 それは勿論正しいものを伝える意味で大きいけれど、絵というのも感情に訴えられて素敵だと思う。



 様々な動物舎に掛けられた動物達の特徴には、
 〜は弱虫だとか、気が向くと尻尾にぶら下がって遊んでくれます。
 とか、頑張っていますとかかれていたりする。



 動物園の文字といったら感情を抜かされて書かれているものが多いけれど、
 旭山動物園のものは動物に真摯でもあり、感情的でもある。
 解説を書いたスタッフの気持ちがありありと伝わってくるものにミンクのものがあった。
 鳥達展示の前に小さな茶色い毛皮のミンクが網の中で飼われていた。
  
 ミンクの籠の脇には白い鳥が仰向けに倒れ、
 胸に2〜3の穴が穿たれている写真が貼られていた。
 写真の脇の解説によれば、
 高級品として売られているミンクはこの籠の中のミンクと違うもので、
 特別変異の黒、または銀の毛皮のミンクのみが売買される。
 このミンクは北海道に多く棲息し、隙間から様々なところに入り込む。
 この動物園でも随分多くの鳥たちがやられており、
 白い鳥の写真はこのミンクが忍び込んで来た時に殺されてしまったものだ。
 と、このミンクが捕らえられた経緯や北海道での深刻なミンク被害について匂わせ、
 彼(?)は最後にこう書いていた。
 「一番の問題は、彼らは必要な分以上に殺してしまうことなのです」と。



 自分たちが飼っていたものを殺されてしまうことを怒るのではなく、
 殺す必要も無いものを殺し、食べることをしないことを怒っている。
 そしてそれを問題提起として来園者に投げかけている。
 どんなに貴重な生き物が殺されてしまったにせよ、
 動物園は民間の商業的な養豚所などと同じではない。
 自分たちの飼っているものを食べてしまう害獣だとただ扱うのではなく、
 対処が怠らなかったのは自分たちの責任、
 ミンクだって生き物だから食べなくては生きていけないのだということを思われているのが
 きちんと伝わってきて「ああ、動物園だ」と思う。
 
 そして「殺してしまうから、どうしなければいけない」と書くではなく、
 こちらに投げるところで止めている。
 ミンクの被害は深刻な問題になっているといいながら、そこで止めるのは中々出来ることではない。
 展示の解説は感情的でもあり、抑制されてもあり、考えさせられて面白い。



 動物たちに付いた解説は性格のものなどに加え、名前、命名者、由来などが書かれたものなどがあって
 来園者と動物達の係わり合いが目に見えてわかるようになっていて面白い。



 スタッフの数も多く、
 少し大きな所には大体2人〜5人のスタッフが付いている。
 見晴らしの良い所はともかく、
 動物や来園者に何が起こってもすぐに対処できる距離にスタッフがいるのが凄いと思う。



 旭山動物園は、今まで行った動物園の中でもっとも臭いが少なく、動物舎も美しく、
 道が綺麗な所だと私は思う。
 落ち葉もゴミも至る所、掃き清められ美しくなっている。
 鮮やかな紅葉の坂も、
 ふと気がつけばスタッフが幾人も連れ立ってお掃除をしている。
 そんなに頻繁に動物園に行くわけではないけれど、
 動物達の檻の側に小さな落ち葉の山が出来ている所も多い印象がある。
 
 華やかな動物たちの展示にまぎれて、スタッフの方のそうした姿は地味で目立たないけれど
 この動物園を人気ナンバーワンに押し上げている原因の一つに
 そうしたスタッフの細やかな動きがあることは間違いない。