鬼灯の残る

コップの中で鬼灯が揺れる。
 入っていた実も消えて、中を守るための骨組みだけが朱色の籠となって姿をあらわす。
 窓から陽射しが差し込むと、金魚のように活き活きとした色彩がコップで躍る。
 朱の鮮やかさがとても綺麗で、コップに指を入れクルクルと動かすと
 周りの硝子に朱が映りこみ、原始的な万華鏡を見ている様な気分になった。

 「(鬼灯の)葉脈が白い姿で残ると思ったのに」と母が悔しそうに言った。
 時期の過ぎた鬼灯を枝から外し、水と何かの入った大きな容器にポンポンと漬け込んで数日。
 葉脈の隙間、丸い実を溶かした。
 
 朱色の網で編んだような柔らかな姿はとても可愛くて「こっちの方が断然良い」と、私。
 母は、イレギュラーな楽しみよりも、予想と違う姿になったということがちょっぴり悔しいらしい。
 その気持ちもわからなくはない。

 のんびりとお茶をしながら朱の籠のような鬼灯を眺める。
 とても愛らしくて可愛いのに、妙な淋しさが一抹胸によぎる。

 それが守るべきものを失くしてしまった姿だからか。
 本来の季節を過ぎてそこに在る事の違和感からなのだか。
 わからないけれど。
 目頭が刺激され、慌ててカップを口に運んだ。
 お茶が喉を通る熱さが穏やかに体に広がって行った。