残暑見舞いの季節

36度、37度・・・一体誰の体温かと伺うような日が続いている。
 ぎっちりと詰まった車の列の脇を通ると、熱い空気の塊が道路から襲い掛かってくる。
 この所の厳しい暑さは半端なものではなく、長袖の服など着ていると日に3度は着替えてしまう。 
 噴き出してくる汗はふつふつと小さな球形になったり、じっとりと皮膚にまとわり付いたり、
 思いがけない所でコロコロと転がっていたりする。
 思考能力の落ちた頭でぼんやりと、汗と一言に言っても色々な出方があるものだとそんなことを思う。
 まあ、だから何ていうこともない。
 
 近くの公園に行くと、池はいつものように満々と水を湛えてはいたが、
 地面はぱさぱさと乾き、何組かの子供達と親があちらで遊び、
 悠々自適な生活を送られているようなご夫婦がトコトコとお散歩しているばかりで人が少なく、
 まるで平日の昼間のようだった。
 
 あまりの暑さに、頭上を覆う緑もしわしわと身を縮めているように見える。
 毎日水やりをしている我が家の庭も、
 日当たりが良すぎるのか枯れる一歩手前になっているものがあった。
 池の側の公園であってもこんなにしょんぼりとしてしまうほどの暑さなのかと、
 頭上を見上げながら思う。



 しばらく歩いていくと、
 数年前から顔見知りになっているジャズ系のストリートミュージシャンの人達がいた。
 今日は演奏しないのかと尋ねると、「暑くて・・」と言いながら演奏をしてくれる。
 彼らの音楽はとても陽気で、道行く人の足を止めるが、その分エネルギーを使うようで
 4曲もすると彼らのTシャツはぐっしょりとなってしまう。
 私は声を掛けた後ろめたさを思いながら、リズムを取って楽しむ。



 少しすると、閑散としていた公園の中に小さな人込みができた。
 遠くで遊んでいた小さな子が、彼らの前に走ってきて踊りだす。
 この暑い中、いつも演奏している人たちも、今日は木陰に隠れてほとんど演奏をしていない。
 そんな状況で彼らは汗を飛ばして演奏している。
 周り中皆、手をたたき、足でリズムする。
 4曲。そして休憩。また4曲。休憩。。。
 
 一度集まった人達の輪は中々崩れず、
 彼らの休憩中も少しはなれたところに座ってじっと待っていたりする。
 娯楽の少ない暑い日差しの下で。
 
 「暑い、疲れた、喉が渇いた」と言いながら、
 彼らも背中に受ける期待の視線を感じて次の曲へと立ち向かう。
 そうした所はやっぱりプロなんだな。。。と、思う。



 夕暮れ時。
 ヒグラシが鳴き始めたころ、ブルースが聞こえた。
 池の向こう側からビートルズも聞こえた。
 叢からはこおろぎの声。
 
 こんなにも暑い日が続いているというのに、
 カレンダーは既に残暑見舞いの季節。
 
 体の感覚は、今こそが夏真っ盛りだと言っているのに。
 夏は既に過ぎかけている。