花捜し

 青空の下、花弁が一枚、二枚、そして、沢山。
 風が吹き、薄紅色の花弁に覆われた枝が揺れる。
 小さなはなびらは視界を染めるように舞い落ち、舞い上がり、
 つむじ風の中に紛れ込んでは、道々を桜の回廊へと変えてゆく。
 
 電車から外を見れば眼下に川沿いの桜並木が
 まろやかな雲のようにふわふわと続いている。
 ゴトゴトと揺れる電車から、いつまでもふわふわと続く桜色の雲を見ていると、
 こちらの時間までふわふわと伸びては縮み、
 いつの間にか浮き浮きと楽しげな気持ちになってくる。
 
 線路の脇に菜の花の黄色がパッと閃く。
 紫大根の優しげな紫が電車の振動に揺れている。
 中国では慶事のある時、慶兆として瑞雲(五色の雲)が現れるのだという。
 中国のそれがチベット曼荼羅などにあるような色かどうかは知らないけれど、
 どんな色なら楽しいだろうと考える。



 この季節、
 満開の桜色。菜の花の黄、紫大根の揺れる紫、楓の枝先に挿した紅、草木の緑、
 真白の雲に、空の青。
 どの色をどう組み合わせたら縁起がよさそうになるかと思い巡らす春の朝。
 春眠暁を覚えず。
 頭の中は桜色。
 
 友人と街をそぞろ歩けば、日本には思っていた以上に桜の樹が多いことに気付かされ、
 「あ、あそこで咲いている」「あ、あそこも綺麗」と
 指差し、寄っては惚れ惚れと二人で見上げる。
 
 真っ黒なごつごつとした桜の幹に一輪、二輪と咲いているのも、
 枝を取り巻くように、空に広がるように無数の花があるのも、
 どちらも、どちらも甲乙付けがたく。
 私たちはふらふらと桜に誘われて小道を行き、お寺に詣で、仰ぎ見る。
 
 街中の事だから、桜の枝は電線を保護するためか
 時折無残にバッサリ切られていたりもするのだけれど・・・。
 
 シートを引いてワイワイも楽しいけれど、桜を探しながら店を覗き、
 お互いに似合うとか、駄目だとか言いながら
 店を出て桜を探してふらふらり。
 そんな花見も良いのじゃないか。



 桜に釣られて歩いた道に、思わぬ発見もあるもので・・・・
 本日一番の桜は防衛庁のなんとか研究所内。
 陸上自衛隊員の研修所(なのだと書いてあった)。
 
 門から覗く見事な桜は、桜の立つ坂を白い花弁で染め上げ、
 訪れる誰かの為に真っ白なトンネルを作り上げている。
 風が吹くと、満開の桜の影が花弁の色に染まった。



 陸上自衛隊の人は、このトンネルを潜って入社(入隊?)するんだろうか。
 新しい服に身を包み、この大きな桜木の桜吹雪の中を行く。
 それはとても、嬉しい夢のような心地なんじゃないかしら。
 
 と、守衛の居ない門内へ入る度胸のない一般人はそんなことを思った。
 
 見事な桜の姿に、
 人の為に桜を動かすのではなく、桜の為に電線を動かして伸びやかな桜を残す。
 そんな選択が出来る国の国民でありたいな、と、そんな事を思った。