卒業の頃

昨日、初雪が降ったという。
 実際、風は突き刺すように冷たくて、
 扉から外に出たのにコートを替えにあわてて家に戻った。



 先日、早稲田の方へ行く用事があった。
 我が家の辺りの桜は冬芽の周辺がほんのりと淡い桃色に染まって見える。
 まだまだ、桜の枝に色づいた空気がまとわりついているような風情で、
 早く咲く日が来ないかと思う程度なのだけれど、
 早稲田大学の桜はもう咲いていた。



 満開というには早いけれど、
 4分、5分は咲いているような姿にホゥと溜息が出た。
 あれから4日、5日。もう今頃満開の姿を誇っているのかもしれない。 
 早稲田大学の卒業生たちは桜を見て卒業して行くのだろうか。



 昨日、今日の花冷えは、
 桜の盛りを平成生まれの学生たちが入学するまで引き伸ばしてくれるだろうか。



 帰り際、駅のホームで座り込んでいる高校生達を見つけた。
 5〜6人の少年達は学生服姿のまま、階段横の壁に背をもたらせつつ一心不乱に本を読んでいた。
 ゲームでも漫画雑誌ではない。
 珍しいなと目をやると、それは卒業文集だった。
 
 5人も6人もいるのにお互い殆ど口もきかずに、
 ホームの一番細い所にうずくまり、目を皿のようにして文集を読み込んでいる。
 真っ黒な学生服、金のボタン。
 第二ボタンがあるかないかは・・・確認出来なかったけれど。
 時々、グループの中の1人が文集から顔を上げ、
 「あ〜」とか、「う〜」とか奇声が上げる。
 「告白しとけばよかった」とか、「連絡先聞くの忘れた」とか、
 そんなことを言っている。
 
 卒業でまったく別の大学や土地へ行くことになっていたとしても、
 
 卒業後すぐに全ての連絡ができなくなるわけではない。
 頑張れば、人的ネットワークがまだしっかりしている時期だから。
 卒業しても連絡したい人には連絡できる。
 連絡網も後輩も、みんなどこかで繋がっている。
 だからそんなにがっかりすることは無いよと、
 あんまり辛そうにしているので声を掛けてしまいたくなる。
 
 中学や高校の時、卒業までに親しくなれていなければ、卒業は全くの別れ。
 そんな気がした。
 今になれば、それが間違いだったと。
 自分さえ動けば見えていなかったところに沢山の可能性が見つけ出せることを
 私は知っている。
 
 「誰かと話したかった」と後悔するだけではなく「話すために何が出来るか」
 行動する余地があると彼が見つけてくれると良いなと思った。
 
 彼らのしていたホームへの座り込みは、
 マナー違反ではあるけれど、文集に頭を突っ込むようにして見ている姿は、
 なんだか可愛くて桜の花が良く似合うような気がした。