木枯らしの日

少し大きめの風が、窓を、家を、幾度も揺さぶる。
 突風に、心の奥底からワクワクとした気分が湧いてくる。
 窓を開けると、冷えた風が一息に部屋の中へ吹き込んできてカーテンがバタバタと音を立てた。
 空が唸っている。



 自分では手の届かないエネルギーが、自分の脇をすり抜けるように抜けていくのは
 妙に清々しい爽快感がある。
 自分は風が吹く前も後も同じ場所に立っているのに、
 何か目に見えない不純物を通り抜ける時にスパァッと抜き取って行ってくれるような気がする。



 この二日ほどで気温がぐっと下がった。
 今年は着られないで終わるかと思ったカシミアのジャケットを羽織り、外へ出てみる。
 
 「少しぐらい寒いといっても知れている。コートは無しでも大丈夫」という甘い見通しは
 北風に蹴散らされ。
 無目的の散歩はそのまま、寒さとご同行することになった。



 急に冷え込んだせいか、近くの公園でフリーマーケットを出している人達は
 いつもより少なく、歌や演奏などのパフォーマンスの人達もまばら。
 けれど、その間をそぞろ歩きしながら見入り、聞き入り、拍手し、楽しむ人達は
 いつもよりもぐっと多くて、もこもこに着膨れた人達があちこちに円陣を組んで笑っていた。
 
 池は太陽の光を受けて白くひかり、風が吹くたびに池面に黒い三角形の影が走った。
 鴨が勢い良く池に飛び込んで来た時、
 キラキラとした飛沫の間からカイツブリの甲高い声が聞こえた。



 ふと、「暇人」と自己申告していた友人とお茶がしたくなった。
 が、電話を掛けると夕方の用事の30分程しか駄目だというので別の日を約束する。
 
 妙に話したい気分だったので残念なような気もするし、今日は一人でいる方が良いような気分もする。
 こんな時はやっぱり「断られてよかった」なのだろう。



 見上げると、欅の枝が風に揺すられて鳴っている。
 真っ青な空に浮かぶ白い雲が、枝に分断されながら動いている。
 
 明日の朝食用に絶品のパンと絶品のソーセージを買い、
 流れてくるソースの焦げる香りに流されて、一舟のたこ焼きを買って家へ帰った。
 ほかほかの湯気の立つたこ焼きを、びゅうびゅうと風の吹く窓の向こうを見ながら食べるのは、
 なんだか少し贅沢な気がした。