雷の産屋

サンフランシスコへ向かう機内にて。
 
 ふと目覚めると、機内の照明が落ちていた。
 空はすっかり暗く、窓の遮光カーテンを下ろそうとすると、真横と下に星が見えた。
 普段は基本的に離陸・着陸さえ覚えていない私のこと。
 夜の空はあまり記憶していない。



 雲海の上、青白く瞬く星々は地上で見るよりもずっと大きく、とても静かだ。
 昼間、半月より膨らんだ月を見ていたので、
 ひんやりとした外気が僅かに伝わるような小さな窓から月の所在を捜したものの見当たらず。



 機内はとても暖かでコートの必要など無いのだけれど、
 窓を隔てた向こう側にはマイナス何十度という世界が広がっている。
 マイナスの世界をこんなに内部が暖かな物が飛ぶなんて、なんて不思議。
 
 渡り鳥もあたたかではあるけれど、これほど上空を飛ぶことは無いだろう。
 
 飛行機の翼のライトの灯りも、暗い雲海へ沈んでいくようで、
 夜がどれほど深いかを教えてくれる。
 
 高い所はとても怖いけれども、ここまで高いとどこか突き抜けてしまってどうでも良くなる。
 じたばたしても、何も出来やしないからかもしれない。



 いつだか、飛行機は本来随分高い確率で墜落する筈なのだ、と、聞いたことがある。
 人為的な整備ミスや天候によるミス、機体の消耗度を数字で考えると
 実際に事故が起こっている確率よりも多く事故は起こるのだそうだ。



 本来の数字よりも実際の事故の方が少ないのだとしたら、
 それだけ多くの方が予測される以上に頑張っていらっしゃるのだろう。



 と、翼の下に光が生まれた。
 弾ける様な強い丸い光に一瞬、
 戦前の夜間飛行の話を思い出し未だ針路確認に閃光弾を使っているのじゃないかと思わせられた。
 
 海の上、どこかの国の何処かの場所で雷が生まれていた。
 星空の下、雲海の中からあぶくのような光がパッと浮く。
 ポッと丸く盛り上がり、光は雲海の上を横に滑り抜けていく。



 雷のエネルギーは最初に上へ盛り上がった時が一番高い位置に行くようで、
 最初の一瞬以外は光が雲海を突き抜けて星星の元へ辿り着くことはない。
 
 雲海の中で破裂し、ほんのりと朱く雲を染めるか、ジグザグに雲海の表を滑るのみ。



 無数に浮かび上がる光は強いものの、その光景は不思議に静かで、
 まるで日々の営みという神聖な奇跡に思えた。
 
 星空の下、あちこちで生まれてくる雷を皆様にも見せたくて、
 雷が出てくる時間をカウントしながら100枚以上の写真を撮ったものの・・・
 光る瞬間にどうしてもタイミングが合わなくて、右の奥に僅かにそれらしきものがうっすら光る
 この1枚しか、雷の産声をお目に掛けることが出来ないのだけど・・・。
 
 中央の光は翼の灯り。
 右奥の地平線(雲平線)に霞んだ雷、
 デジカメから移してはみたのだけれど・・・・
 うーんやっぱりブログ上では真っ暗のよう。