冬の朝
ふと、肌寒くて目が覚める。
枕元の時計は暗い部屋の中でぼんやりと薄緑色に輝く針で5時30分を教えている。
目覚ましのいらない目覚めは珍しい。
布団の中のぬくもりにもう一度浸ろうと思ったものの、折角の機会。
目覚めてみる事にした。
西の空も東の空もまだ暗く、星が誰かの手からポロポロと零れ落ちたように光っていた。
自分より大きめのスリッパを履き、ぬくぬくとした半纏に包まり、ミルクを沸かす。
電子レンジで作るミルクの方が、鍋で作るミルクより冷めやすい気がするのは何故だろう。
鍋のミルクの方に優しい甘さを感じるのは何故だろう?
鍋から上がる湯気がやさしくて、
寝床から引き離された体の寒さへの強張りが解けていく。
静かな台所にふつふつと小さな泡が沸き、弾ける音が響く。
一晩ヒーターを掛けないでいると、家の中でも息は白くなる。
そんなことに、もう12月。
師走なのだと感慨が深まる。
重量感のあるマグカップにまだコトコトと音を立てているミルクを注ぎ、
1滴、香り付けにブランデーを垂らした。
ふうふうと冷ましながら窓際へ行くと、西の空には濃紺。
東の空は薔薇色に染まっていた。
小さなもこもことした雲を
薔薇や牡丹の一番艶やかなピンクと華やかな金の火花が染め上げていく。
ホットミルクの温もりが体の隅々へ染み渡っていくように、
空もぐんぐん明るくなる。
西の暗さがどんどん果てへと追いやられていく。
昼と夜の狭間をミルクを片手に見物をする。
西の空が明るくなった頃、朝の光に照らされて柴犬を連れたおじさんが走っていくのが見えた。
甲高い鳥の声が響きだした。
今日がまた動き出す。