再会

 土曜日、朝から雨が降っていた。

 外へ出ると昨日までとは少し違った寒さにどきりとする。
 息を強く吐くと空気に白い筋が出来た。
 空気が白くなるのはこの冬初だ。
 アスファルトが濡れて黒々としている。
 
 近所の庭先の柿の木が華やかな赤と緑の斑に染まった葉の間から
 たわわに実った真っ赤な実を覗かせ、
 しとしとと降る雨の中で何羽もの烏が柿の実を楽しんでいた。
 烏達の食べ方は荒っぽく、柿の木のご主人にとっては迷惑なことに、
 柿の根元に広がる駐車スペースには幾つもの柿の実が落ちて潰れ、
 濃い灰色に濡れたコンクリートの上に艶々としたオレンジの色を咲かせていた。
 雨の日の色調の落ちたような世界の中で咲いたその色に思わず見惚れた。

 去年の柿の季節、私は一度もカラス達が柿の実を食べているのを見ることが無かった。
 家々の庭になる柿は、烏にも人にも食べられることが無く
 ただ道を行く人の目をその色で楽しませているだけだった。
 だから、
 柿のご主人には申し訳ないことに柿の木に群がる烏達の姿は何故だか無性にホッとさせられた。
 昨年、柿の実が食べられていなかったのは、
 農薬か何かで、食べられないような柿になってしまっているのではと不安に思っていたからだ。
 今年は、その杞憂が晴れた。

 友人宛の手紙を出した帰り、
 どこかで見たような小学生と擦れ違った。
 赤いTシャツに青いチェックのシャツを羽織った男の子。
 ちらりと見て、何かがなんとなく引っかかって
 小学生の時の同級生に似ているのかな?と思って通り過ぎようとしたら、
 「こんにちは」と言われた。
 
 知らない小学生に「こんにちは」と言われて
 ちょっと焦りつつ嬉しくなって「こんにちは」と返した。
 近頃の小学生は変な犯罪も増えて挨拶しない子が増えたというのに、珍しいな。
 と、擦れ違ってニコニコしながら傘をクルリと回す。
 
 そして、軽く笑って「こんにちは」と言った少年の顔を思い返し、
 慌てて振り返ると、少年の後姿はもう2m程先へ進んでいた。
 
 見たことがあるのも当然。
 彼は私が先日電車で怒ったあの大柄な少年だった。
 
 土曜日だと言うのに授業があったのか。
 そもそも我が家の側の小学校に通っているのか、それとも近所に住んでいるのか?
 そんなことを思いながらも彼の自然な笑顔を思い出して胸が熱くなった。
 あんな風に叱ったのに、こちらは気づいていなかったし、
 普通に擦れ違ったって全く大丈夫だったというのに、
 彼が自然に挨拶をしてくれたことが、偶然の擦れ違いをしたことが、
 まったく想像もしていなかった嬉しい喜びだった。

 私は彼の後姿を少し見送ると、
 誰もいない道で少しだけ子供に帰ったような気分でクルクルと傘を回して家路についた。
 弾むような気持ちのまま歩く道が、
 いつもより少しだけ長ければ良いのにと思いながら・・・。