立冬
風が随分と強くて、表へ出ると首をすくめる。
電車は強風の為予定よりもゆっくりと来てゆっくりと走る。
のんびりとした電車の中で、じりじりと気持ちばかりが先走りはするのだけれど、
電車の速度は速くも遅くもなるはずがなく、新しい駅に到着する度に
「ただいま遅延・・」とアナウンスが流れる。
電車の窓から差し込む光はあたたかというより、暑くて眩しい。
妙に透き通って見える光に秋から冬への変化が見える。
携帯の乗り換え案内サイトを新しい駅に着くたびに更新しては、遅刻か、そうでないかと一喜一憂。
風が吹くことは止められない。
びょうびょうと窓硝子が揺れる。
電車の中は一筋の風も吹き込まず、眠りを誘うような温室と変じてのろのろと走る。
最近は電車に乗っている時間が長い。
先日の週末も、横浜の向こうに住む友人の家に招かれて昼食をご馳走になり、
たっぷりと話した後は別の友人のバレエの発表会だと
千葉の少し手前の船堀まで延々と電車に揺られた。
東京から、友人達の所へ行って帰るまで、乗車時間は約5時間半。
電車の中で本を読むのは目が疲れるからと、
他人を見るか眠るしかない私にとってこれはかなりの長時間。
くうくうと眠ってもまだ先がある。
友人に会うことで疲れなんて吹っ飛んでしまうのだけど、
延々と続く電車の時間は何か起こりそうな予感の緊張感が見当たらない。
一度だけ、小さな白いラムネが軽やかに弾みながら一両分、
青い服をした男の子の手から滑り降り、前から後ろへと旅行したきり。
あとはみな、乗って座って睡魔に誘われ、慌てて降りてくそればかり。
目をつぶるたび、気がつくと前の座席に座った人が変わっていた。
そんなちょっとした電車の小旅行を思い出しながら、
目的地で、焦って走って飛び出すものの・・・
本日は4分也の遅刻となった。
電車で10分、走って少しは短縮出来たはずだけど・・・
電車のダイヤも太陽と北風。
吹けば吹くほどのろくなる。
今日から冬が始まった。