旅行社コミュニケーション

友人が旅行に行くので旅行社に行くと言う。
 情報は旅行雑誌やインターネット、電話でしらべるばかりで
 実際に旅行社に行ったことがほとんど無い。
 一緒に付いて見ていてもいいかと聞くと、
 友人は「勿論」と笑い、他人のなんて面白いかなあと言う。
 
 昼間のうちにお酒を楽しみ、着飾った格好のまま
 旅行会社のカウンターで宿の手配を頼む。
 神戸とそして関西〜東京のどこかの温泉の部屋を頼むも、3連休は予約が一杯。
 「その日の神戸の宿は一つも空きがないんです」と、旅行社の方が言う。
 「神戸はネットで一応抑えてあるんだけど・・・」と、彼女が呟く。
 自動車での旅行は辛い。
 まして、3連休では渋滞必至。
 
 「じゃあ、東京までの温泉で予算は・・」と彼女が言うと
 カウンターの方の指がキーボードを滑り、「難しいですね」と嘆息が漏れる。
 隣に座っていた30代位のお客さんも手持ち無沙汰か
 「なんだか全然泊れる所ないんだよ」と話かけて来る。



 「データーが地域ごとなので、温泉という指定だけではお調べしにくいのです」
 とカウンターの彼女。
 地図を持ち出してきてチャカチャカと調べだす。
 私達も頭を寄せて「ここの温泉どうかな?」「こっちは東京に近すぎる?」とこそこそ相談。
 私たちが地図を指して見つけた地名を
 カウンターの小幡さんが即座に調べる。
 「ここは?」
 「申し訳ございません、当社が契約していない温泉地・・・」
 「空き室は3つありますが、大変に高額で・・」
 「空きがありません・・・」
 
 幾つの温泉地を調べたのか、私たちのなかに妙に楽しい連帯感が生まれていく。
 「ここも?」「あそこも?」
 「ううん、そこだと遠回り・・・」
 隣の方が私たちのやりとりを笑い、
 「良い所がみつかるといいね」と言って去っていく。
 隣の席にいた人も、旅の宿探しという目的は同じだから励ましてくれたのかしら?



 どれだけ時間が経ったのか
 小幡さんが「あ!」と声を漏らして薦めてくれる。
 利用者の評価も86点。
 予算もさほどオーバーしない。
 場所も殆ど理想的。



 「いいわね」と彼女が目を光らせる。
 「素敵ね」と私も目を見合わせる。
 カウンターの小幡さんの顔もキラキラ輝く。
 即決。
 
 と、小幡さん
 「改築された新館のお部屋と、昔ながらのお部屋。700円程で変えられますが・・・?」
 と聞いてくる。
 既に若干だけれど予算も出ている。
 700円位ならとも思うし、ちりも積もればなんとやら・・・
 友人は悩み、私だったらどうするのかと聞いてきた。



 「私?風情があるほうがいいし、古くていいわ」と私がさっさと結論を言うと
 ぱっと友人の顔が明るくなって「そうよね」と言って契約を勧める。
 カウンターの彼女は契約を進めながら
 「同じ海沿いですし、たいして変わりませんから、私もその方がいいと思います」
 とさらりと呟いた。
 
 旅行社の人なのだけど
 個人としての心情と、こちらの思いと両方しっかり受け止めているその呟きに
 私と友人は大笑い。
 次に私が旅行社を使うことがあったなら、担当は彼女のような人がいい。
 誠実でユーモアのある人。
 
 旅行社に直接行くのは初めてだけれど、
 同じ目的のために動く密度の高い瞬間的なコミュニケーションはとっても楽しい。
 いつか私も自分の為に旅行社に足踏み入れる。