ちょっぴり間抜け

 夕方を過ぎて、体の中にこもるようだった暑さが
 すぅっと抜けていく。
 涼しい風が部屋の中にもわりと寄り道をしていく。
 昼間の暑さがまだ体の芯に燻るようで、
 窓際にござでも引いて寝たい誘惑に駆られるけれど、夜はもう秋。
 風邪を引くのは必至でぼんやりと佇むことで諦める。

 地上の灯りが映るのか、ぼってりとして少し白みを帯びた雲が空に満ちている。
 雲の上の月は今日も綺麗だろうか。
 
 ふと、
 「誰もいない砂漠に美人がいる。果たしてそれは美人だろうか?」という言葉を思い出す。
 数日来、綺麗な月夜が続いている。
 けれど雲の上に本当に月があるかはわからない。
 なんてことを考える。
 天へ昇っていくような虫の唄を聴きながら、声は聞こえる。
 でも、音の根元に虫は本当にいるのだろうかと考える。

 今、雲の上、飛行機の中でお月見しているどこかの誰かと、
 草むらに分け入って、虫たちを探している誰かしか、
 本当のところはわからない。
 そんなことをゆっくりと
 水を飲みつつ考える。

 水杯は、
 二度と会えないかもしれない人と交わすもの。
 この時は、この日この時にしか会えない時だから。
 なんて、おかしな言い訳しながら
 植木に少し水をやり、自分もごくりと水を飲んで
 今日この時と水杯を交わした。
 
 お酒を飲んでるわけでもないし、水を飲むのに言い訳なんて必要も無い。
 傍から見れば一体なにをしているのか、
 間抜けたことをしてるだろうと自分ながらに笑ってしまう。

 間抜けといえば、先日ちょっと変わった烏と出会った。
 
 地面からちょうど1mくらいの枝に掴まり、
 足をぐっと開いてポカンと嘴を開けていた。

 ちょうど、木の陰になり、若干見づらいことはあったけれども
 まさか烏が口を開けっ放しでいるとも思えず、
 烏除けの張りぼてかしらと寄ってみた。
 
 2m、1m、烏は動かず、もう一歩。
 烏は「おや?」というようにこちらを見ると、
 どうしようかなとでも言うように口を開けたまま首を傾げた。
 そして、ググゥと喉の奥で小さく鳴いた。
 私もぴたりと歩を止めた。

 素晴らしく天気は好くて
 烏の向こうの木々の葉っぱはキラキラと日差しで輝いている。
 風が烏の首の辺りの羽をくすぐっていった。
 「・・・・君、口開けてるとちょっと間抜けよ」
 そう言ってカメラを向けると、
 烏は枝の上で慎重に立ち位置を替え、口が開いているのがはっきりとわかるように
 こちらにしっかりと横顔を向けてポーズを取った。

 私が見ていた5分近く、
 彼(?)は何故ずっと口を開けていたのか・・・?
 知ることは出来ない。

 失礼ながら、
 どうも人であるかどうかは関係なく
 ポカッと口を開けたままというのはちょっと間抜けだ。