ミミズクの糸車

半分より少し膨らんだ大きな月が浮かんでいる。
 障子越しに橙色の灯りがぽっと灯っているようで、
 ふと、小さな頃に読んだ昔話の冒頭部分を思い出す。



 鬱蒼と木々が繁る山中。
 月明かりさえ届かぬ夜道を旅人が彷徨う。
 灯りを持っていてさえ、自分の足元がほとんど見えぬような闇の中。
 心は怖気、前にも後ろにも行きたくはないと思うものの、
 山犬が出るかもしれない。
 どんなものがいるか知れないと旅人は足を止めることが出来ない。
 足元はぬかるみ、ホホゥとどこかで鳥の鳴く声する。
 風が吹くたびに旅人は、急ぐからと山へ入らずに麓で宿に泊ればよかったと後悔するものの。
 後悔先に立たず。
 歩いている道が正しいものかどうかもわからなくなっている。



 ふっと顔を上げると、
 旅人の目に木々の葉陰に隠れて遠くにポツリと黄色く灯りが見えた。
 深い闇の中、暖かな灯りは旅人を誘い、
 旅人は足元をかまうこともなく夢中で灯りを目指した・・・。



 それから旅人は
 穏やかな橙色の灯りの脇に老婆が座り、木の上でカラカラと糸車を回す光景を目撃することになる。
 そして
 ズンズンと糸車を回しながら灯りごと近づいてくる老婆を退治し、
 その翌朝、老婆が実は年を経たミミズクで、
 その山を行く旅人を食べてきた怖ろしい化け物であったと知ることになる。
 確かそんな結末だった。



 もう、随分昔に読んだ話で
 なんという本であったのかも、
 ミミズクの老婆と旅人とのやり取りもほとんど覚えていないのだけど、
 先の見えないような闇の中でポツリと灯る明かりを見たときの安堵感や
 少しでも早くそこへ行こうと気の焦る思い。
 闇を怯える旅人の気持ちを、遠くに灯る行灯のような灯りを見るたびに思い出されて仕方ない。



 今夜の月はなんとなくそんな話が思い出されて・・・
 どなたかこの話がなんという話だか、ご存知の方はいないでしょうか?