ゲド戦記を観てきたけれど・・・

昨夜、ゲド戦記を観てきた。
 見終わった瞬間、
 思わずブーイングをしたいほどの腹立ちに襲われたけれど
 思いを抑えて観客の数を数えた。
 東京駅・銀座から歩いて数分の有楽町で19時30分開演のジブリ作品。
 300席以上はある場内を埋める人数、約97名。
 開演からまだ数日しか経過していないというのに・・・。



 歌は綺麗だし、声優陣も嫌なイメージが残らない。
 そんなに特有な声だったというイメージの人もいないけれど、違和感はない。
 テルーの声は伸びがあり、挿入されるテルーの歌はとても綺麗なのだけど・・・・
 如何せん、歌のシーンが長すぎる上、延々と映されるテルーの口は
 昔のロボットアニメかなにかのようにぱくぱくと四角いだけ。
 そのうえ、歌声と絵がずれていて、質の悪い口パクコンサートのよう。
 
 テルーの一つの山場といえるそのシーンだけではない。
 画像と声がずれたり、妙に主人公以外の動きがどこか間延びしてみえたりする。
 出てくるキャラクターは口髭率が高く、
 顔は違うように描かれているはずなのに何故かほとんどの人が同じ付け髭をしているように見える。
 年齢にあったそれぞれの髭というのがあるはずなのに、みんな上から取って付けたようで
 表情の細かい部分を描き切れないからだろうかと邪推してしまったり。
 ジブリの作品は、後ろにちらりと見える人でも、
 「こんな人生を送ってきたのだろうな・・」と思わせられる表情があったりするのにそれが全くない。
 
 場面転換をくるくるするのは良いにしても、
 「〜の時のようだわ」という台詞→場面転換ならば
 「〜の時」のエピソードの詳細に行くというセオリーはしっかりと裏切られ、
 まるで別場面が繋がる。
 そのため、「〜の時」という思わせぶりな台詞は中途半端で浮いて、
 なんのためにその台詞があったのかという意味が通じない。
 
 そんなことがやけに多い。
 とにかく、
 切ってはいけない、
 観客に投げるならば最低必要なエピソードというものが省略され、
 そのくせここまで必要ないのではないかという景色のシーンが音楽と共に延々と流れる。
 その景色のシーンも、一緒に流れる音楽におんぶしてしまっている。
 淡々としたシーンであっても、もう少し音楽以外に出す音にこだわれたのではないだろうか。
 そもそも、こんなに景色のシーンは必要だったのか・・・
 
 映像の全体の雰囲気は、宮崎駿監督の書かれたシュナの旅をもとにしているらしい。
 うーん、キャラクターの着ているものとかを考えるにラピュタナウシカを思い出すけど・・・。
  脇の登場人物は、どうしても何かのジブリ作品で観た様な気がしてしまう。
 群集というか、後ろにいる人達もひとまとまりなような気がする。
 似たようなシーンをどこかで見かけたような気がする・・・。
 どういうことだろう?
 なんだか切り張りされたような・・・。
 なんというか・・・最終編集前の荒編集作品を見たような気分。



 本来、キャラクター同士の関係を映像で語るべき
 エピソードを抜きすぎているから、伝わらない。
 台詞が嫌に説明的であったりして説教くさい。
 太陽とキャラクターを妙に重ねたり、
 産めよ増やせよ的なところも感じて妙に宗教的な気さえする。
 宗教的といっても、
 妙に勧善懲悪的で自然崇拝的な感じではない。
 
 宮崎駿監督では描かないような
 きついシーンもあるし、部分では悪くないところもある。
 けれど、
 今までのジブリ作品は、どんな出来であっても中で生きている人がいて、
 その生活のワンシーンをパッと覗き、一緒に考えるような思いがあった。
 今回は、場面転換した瞬間から、「キャラクターが動き出す」という印象が強い。
 「それまでも動いていたキャラクター」ではないのだ。
 
 悩んだという主人公も
 苦悩しているというより、ただおびえているだけに見えるし、
 彼を凶行に駆り立てた理由は心に伝わってこず、
 結局のところファザーコンプレックスで、傷つけた父の姿をゲドに転化しただけかと思ってしまい
 きちんとした苦悩の解決もなければ、苦悩の深みもわからない。



 今回のゲド戦記の中で
 一番人間くさかったのは敵役のクモかもしれない。
 途中から、なんでもここにまかせてご都合主義に終わらせてしまおうという感じがしたけど・・・。
 
 いつだったか、
 ジブリに就職したいと言っていた友人が
 ジブリの初任給は13万位だと言っているのを聞いた。
 大学ではなく、専門学校卒とはいえ。。。
 それでは到底生活ができないと彼女は受験を諦めていたけれど・・・
 そこまで厳しくても位ついてくるぐらいでないと、
 あの「ジブリ」をジブリたらしめているクオリティは出せないのかもしれない。



 そんなスタッフの時間と技術を使って監督された筈なのに・・・
 今回の、この感想が本当に残念でならない。



 ゲドの世界はジブリ作品というにはあまり生きていなかった。



 これは好みの問題なのだけど・・・・
 主人公が荒ぶる思いに取り付かれる時の顔は、あんな顔じゃなくては駄目だったのだろうか・・・