ガラガラヘビの道

 昨日
 アメリカアリゾナ州フェニックス辺りは、
 連日45〜6度の凄まじい暑さに見舞われているというニュースがあった。
 
 赤いのに、暑さと乾燥でどこか表面が白茶けたように見える大地。
 遠くにポツン、ポツンとサボテンが見える。
 道の脇には水で洗えば鮮やかな緑が出てくるのだろうに、
 うっすらと砂がまとわり付いて白い膜が張ったような潅木。
 そして日本ではすぐにドライフラワーとして扱われるような花々が、
 白や紫の花を咲かせていた。
  
 岩石砂漠が広がるアリゾナ。
 中学生の頃、夏休みを利用してホームステイに行った。 
 観光地であるフェニックスから車で2〜3時間。
 日本で売っている地図には出ていないほど小さな町。 
 隣の家まで徒歩で20分の距離であっても、そこは町だった。
 
 あの夏も、世界中が暑かった。
 日本を出るときにイタリアで20人近くの方が亡くなったと
 成田空港のロビーに置かれたTVの中でアナウンサーが話していたのを覚えている。
 
 家の中は常にクーラーがかかり、ひんやりとした空気が流れていたけれど、
 外に出れば洗ったジーンズも10分足らずで乾くような暑さ。
 日本のように蒸していないから、
 水を飲んでも飲んでもツーっと伝った汗はこぼれる前に乾いて消えた。

 日本から持っていった体温計はあまりの暑さに壊れたらしく、
 日向の気温を測ろうと表に出したとたん、エラー表示以外の表示を出さなくなった。
 
 庭先のサボテンにはショッキングピンクと蛍光黄色の花が咲いていて
 体長4cm近くある巨大な黒いカナブンのような虫が集まっていた。
 ステイ先の人はみな、その虫をただビーと呼んでいた。
 妙に黒々とした存在感のあるそれは、ひどく気味が悪かったけれど
 その虫の名を知らない家族に、「日本人と虫は本当に近いのだ」とそんなことを思った。
 
 今でも、忘れられないのは
 家の門を出た光景だ。
 
 赤茶けた土。
 舗装されぬ、土埃のあがるその道。
 遠くまで見える地平線。
 そして、道の上に点々と丸く残るガラガラヘビの死骸。

 夜中、ヘッドライトを灯して通る車は蛇たちには巨大な動物と見え、
 とぐろを巻いて威嚇したのだけれど、車には勝てず・・・・
 朝になるとアリゾナの暑さの中で、おせんべのようになってしまったガラガラ蛇たちが残るのだ。
 
 昼間歩いている時にはさほど見かけないガラガラ蛇が
 遠い地平線から、遠い地平線まで延びた道のあちこちに
 いくつも、いくつも、丸く威嚇していた姿勢を残している。
 
 何日も経たずに1つのそれがなくなってしまうことを考えれば、
 自分が住んでいる周辺に無数のガラガラヘビが住んでいることが一層わかって怖ろしかった。
 そして何故だか、どこまでも続く土道に感動のようなものを覚えた。
 
 一度、ピクニックのさなかに遭遇もした。
 幸い何人かの大人で退治してくださったけれど、
 子供だらけだったそこで誰かが噛まれていたら・・・・
 命を落としていた人がいただろう。
 それは好奇心の旺盛な私だったかもしれない。

 アリゾナで、空は素晴らしく青く、星は握りこぶしのように大きくて。
 昼間の木陰は日本よりもずっと黒く、貴重だった。
 そして、毎日暑さに対抗するためなのかチリビーンズばかり食べていた。
 沢山良くして貰って、おかしなぐらい笑った。
 
 けれど、アリゾナというと
 なぜか丸く干からびたガラガラヘビが
 道路に無数に散らばるあの光景が思い出される。