夕闇時に・・・

窓を開けると、こおろぎの鳴き声だけが聞こえる。
 昼間が凄まじい雷雨だったから、他の虫たちは湿気で羽を鳴らせないのかな。
 いや、でも、こおろぎは湿気に強いのかしら?
 よくわからない。



 雷雨が打ち水した涼しい道を長いスカートを揺らしながら歩く。
 今日はもう雨が降らないとわかっている日は
 服の素材を気にしなくていいから嬉しい。
 すっきりと雨が暑気払いしてくれた公園の中を行くと
 しっとりと濡れて一層色めく木々が爽やかな土の匂いを楽しんでいる。
 空気自体が、
つやつやとしてくすくす笑いながら人や物にぶつかって楽しんでいるような気がする。
 
 19:00。
 少し暗くなってきた公園の中で
 楽しげな音が聞こえた。
 薄ぼんやりした公園の、さらに少し暗い木陰のベンチのあたり。
 曲の名前は知らないけれど、音色のほうは知っている。
 無関心を装いながら、足を踏み出すリズムをこっそり合わせた。
 木陰の中前の道からそちらの方をそっと覗いた。



 薄暗がりに、白いチューブが見えた。
 水色のピアニカと、ピンクのピアニカ。
 白いチューブを口にくわえて、きらきらの瞳でアイコンタクトしながら合奏している。



 ピンクのピアニカの彼女が「これは?」「これは?」と鍵盤を叩くと
 水色の彼が「こうで、こうだよね」とそれに合わせる。
 すると彼女の瞳が一層嬉しそうに瞬いて、指が新しい音を紡ぎ出す。
 彼の指もどんどん軽快に踊っていく。



 二人とも、相手の音しか聞こえてない。
 合わせることに夢中なんだと顔と、音とがこちらに伝える。
 二人の脇にギターが見えた。
 ピアニカの前にはきっとこの2本のギターであわせていたに違いない。
 やっぱりこんな感じでお互いをみつめて。



 そんなことを考えていたら
 こちらの足がもっと軽やかに弾んだ。
 楽しそうな人達は本当に素敵。
 
 夜、家族で御寿司に行った。
 今晩のイチジクの揚げ出しの美味しかったこと・・・
 今日の夢も、きっと素敵。
 皆さまの下にも好い夢が届きますように☆