ホットケーキはお好き?

青山のベルコモンズの脇のキラー通りを入り、
 2、3本目の道を右へ入ったところに「香咲」という珈琲屋がある。
 一見、昔ながらの珈琲屋なのだけど、
 美味しい店が放つ雰囲気が醸し出される。
 こちらが気がつくか気がつかないかの淡い甘い匂いが
 珈琲屋の開かれた扉から外へこっそりと忍び出ている。
 扉をくぐると、美味しいバターのやさしい香りに包まれる。
 バターがフライパンの端で沸騰して、
 小さな泡が黄金色の液体の中でくるくると踊る姿が頭に浮かぶ。
 お砂糖の焦げるような甘い匂いに、
 メープルシロップをいつも鍋で煮詰めているのかな。
 プリン用のカラメルかなと顔が笑う。

 香咲の名物はホットケーキだ。
 注文をすると、柔らかな音楽の下でゆっくりと出来上がるまでの時間をつぶす。
 カウンターの中で、お店の方が粉を計量している。
 ボウルで材料を混ぜ合わせる音が小さく聞こえる。
 木材で出来ているお店は、音が木に吸い込まれるせいか小さな音が耳障りになることが少ない。
 お茶請けのサクサククッキーを楽しみながらホットケーキを心待ちにする。
 
 そっと、隣の机にどんな方がいるのかと脇を伺う。
 このお店には、場所柄もあってかファッション関係の方が多い。
 「あそこのジーンズの生地はどうか・・・」と話している
 格好いいおじちゃまたちがいたかと思うと、
 反対側には
 ブティックの販促についての書類らしきものをチェックしている人がいる。
 
 お店の中には終始和やかな雰囲気が流れ、
 たまにどこかの誰かとお話をする。
 
 初めて香咲を見つけた日、
 同じく初めて入ったおじ様と
 「あんまりおいしそうな香りがして入ってしまった」
 「はやく食べてみたい」「美味しそうですね」
 とホットケーキを待ちながら机を挟んでお話をした。
 こちらは三人、向こうはお一人。
 そうして何かの拍子に話が弾んでもまったく不思議でないようなそんなお店。
 
 ホットケーキの味は、当然美味しい。
 綺麗な狐色になった表面でバターを溶かして、
 クリームを乗せてシロップをつーっとかける。
 バターの塩味とクリームの甘味とシロップの広がりが
 ホットケーキで結び付けられて思わずにこりとしてしまう。
 
 気がつけば、
 なんやかやと理由をつけて週に1度は行っている。
 ホットケーキはお好きでしょうか?