幸せな日

 東京よりも、ずっと広い歩道を友人と歩くと
 道端で真っ白な花を沢山つけた木があった。
 気持ちよさそうに枝を伸ばして、
 あまり沢山花をつけているで

 「桜みたい」と友人は言い、
 あまりに綺麗な白なので「林檎みたい」と私は言った。
 二人して「花水木とは思えない」と溜息をついた。
 そして、アン(赤毛の)が眠っていそうねと笑った。

 真っ青な、きらきらとした青空に日焼けの心配をしながら見上げた真っ白な花は
 どこまでも爽やかで、溌剌として感じた。
 高崎の駅前のロータリーの真ん中にそびえる欅も、
 東京でみるよりもずっと気持ちよさそうに、伸びやかにしている。
 これはもう、絶対にGWのきらきらと輝く太陽のせいばかりではない。
 透き通る空気のせいばかりじゃない。
 ではなんのせいかと問われれば・・・わからないけれど。
 やっぱり東京のように建物が密集していないから日照がいいことは大きいのかな。

 高崎の駅の辺り、周辺の公園に植わった木々は
 東京で見かける木とはまるで別種の木のように伸びやかで生き生きしている。
 
 一昨日、群馬で友人の結婚式があった。
 友人と二人で共通の、とても大好きな友人の結婚式へ行った。 
 親戚以外の結婚で、式からの参加は今回が初めて。
 
 とても素敵な英国様式の結婚式場のチャペルでの結婚。
 「あなたはクリスチャンだったかしら?」
 なんてこっそり頭で語りかけながら式へ参加。

 大好きな友人が結婚してしまう寂しさと
 きっと幸せになる嬉しさばかりだったのに。
 泣くとか、泣かないとか思ってもいなかったのに。
 
 扉が開いて、ベールの向こうに友人の横顔。
 一歩、一歩、
 ゆっくりと歩幅を合わせてお父様と歩いてくる姿。
 それだけで
 涙が出てきて大慌てでハンカチを捜した。
 
 長いベールの向こうでピンと伸びた背中。
 ベールから透けて見える高い鼻筋。
 普段からとても素敵な彼女だけれど

 言葉が出ないほど綺麗だった。
 思わず涙が出てきてしまって
 慌ててしまった。

 誓いの言葉も何も始まる前から
 ほろほろと出てくる。

 とても綺麗にしている彼女をしっかり見ていたいのに
 姿が滲む。
 捧げる賛美歌が少し、震えてしまった。
 
 ドラマの結婚のシーンを見て、そんな風に泣くものかしらと思っていたけど
 胸に迫って、ドラマ以上に泣いてしまった。

 誓いのサインを書くときに、
 花嫁が階段を上る方向を間違えて一歩別の方向へ行くと、
 彼が少し笑って誘導した。
 そんなところも彼女らしい。
 一瞬で二人の緊張がそっとほぐれた。
 
 表へでると
 雲ひとつ無い素晴らしい空。
 お祝いの花びらを撒くのと、カメラでそれを撮るのと
 両方をしたくて
 どちらを先にはじめるべきかと一瞬悩む。
 
 真っ白な階段にそって
 黒と華やかな色彩の人が並び、主役の登場を待つ。
 1秒、2秒、3秒・・・
 
 階段の上で声が上がった
 空に、赤や黄色の華やかな色彩が飛ぶ。
 人と人の間から
 ちらりと見えたかと思うと
 あっという間に目の前へ。
 笑み崩れた彼と彼女の最高の瞬間に、花を降らせてシャッターを切った。

  
 どうぞこれから
 一層素晴らしいことが貴女を待っていますように・・・
 
 彼女の親戚の小さな女の子が撒かれた花びらを一生懸命集めていた。
 小さな彼女も「大人になったら」と思ったかもしれない。



 一緒に行った友人とは
 素敵だった彼女の結婚のことばかり話して一晩過ぎた。
 
 帰り際、高崎の周辺をぐるりと歩いて
 和菓子屋を見つけた。
 ねぼけ堂という可愛い名前の和菓子屋さんで練りきりを買って
 近くの公園で食べた。
 
 朝食場所を探しているときに見つけた公園の反対側には
 朝にもいたカップルがいた。
 
 中学生のカップルなのかな?
 朝は隣り合うベンチの端と端に座っていたのに、
 昼間になったら同じベンチの端と端になってるね。
 ずうっと一生懸命話をしていたのかな。
 初デートかな?

 1cmでも、10cmでも近くへ行きたそうな彼と
 恥ずかしがり屋の彼女さん。
 
 美味しいお菓子を楽しみながら、
 10年後には彼らが結婚・・・何てこともあるかもね、
とクスクス笑った。
 彼らの上には
 真っ白な花を無数につけた花水木の枝が未来のベールのように広がっていた。