姉歯建築士は・・・

朝晩の冷え込みで、桜の寿命が長い。
 もうあと数日で・・・と思っていたのに今は4月7日。
 色はさすがに華やぎが欠けてきてはいるものの、
 まだ沢山の花が頭上に広がっている。
 例年よりも白い花弁は僅かな風が吹いただけでも
 はらはらはらはらと・・・。

 池の表面は
 半分以上沈んだ花びらの上を
 更に更にと降り積もる花びらで白く染まっている。
 池のほとりには、誰かが投げ捨てたタバコと桜の茎と萼とで赤茶けた帯が出来ていた。
 花見客の喧騒が遠くから聞こえ、どこかで鴨がぐわぁと鳴いた。

 少し前、姉歯建築士の奥様が亡くなったというニュースがあった。
 マンションから身を投げ、命をなくされてしまった。
 知っている人、知らない人。
 どこへ行っても
 知らない誰かが
 自分の家族の罪を話しているというのはどれほどつらい事だろう。
 
 姉歯建築士の事件が明らかになった時、
 新聞も週刊誌も続々と彼の生活や生い立ちを探った。
 彼に成人した息子さんがいることも、
 それ以外のことも、いまや周知の事だ。
 
 彼が偽装をしたことで「大きな利益は無い」と、
 発覚当初に何処かの建築士が語っていた。
 あれだけマスコミが調べて出てこないのだから、
 ひどい酒癖もギャンブル癖もおそらくあったわけではないだろう。
 
 彼がしたことは許されるわけもない。
 けれどそれで
 大層なお金を得たわけでもなく、
 ただ普通の生活を淡々と続けていた。
 
 発覚したときの少しホッとしたような顔が忘れられない。
 
 奥様が亡くなってしまった彼の気持ちを考えてみた。
 発覚以来、
 自殺と人目を避けるため友人にかくまわれている彼はなかなか表に出てこられない。
 
 発覚からの調査で、彼が行ったことで
 経済的、精神的なものはともかく、
 肉体的な被害を受けた方はまだいなかった。
 
 だから彼も罪の意識はあれ、
 若干の安堵を抱いていたのではないでしょうか。
 けれど、その罪が巡り巡って
 亡くなってしまったのが
 その奥様だったというのはなんとも言いがたいものがある。

 自分がおこなった罪で、
 目立つことも出来ない姉歯建築士
 お葬式には出ることが出来たのだろうか。
 マスコミの報道は無かった。

 マスコミの方もその痛ましさを思って、
 報道されなかったのだと思いたい。

 私もどれだけ姉歯建築士の事件について外で話したか知れない。
 それがご家族の耳に触れたら、とても辛かったことだろう。
 姉歯氏がしたことはやっぱり許されることじゃない。
 決して許されることではないけど・・・・
 でも・・・

 空を見上げると、
 半分の大きさの月がいつもより遠くに見えた。