お昼寝日和。春めいて

目覚めたら、春が来ていた。
 まだ、桜の咲く気配も無いのに
 駅はいつもより混んでいた。
 みんな、
 「このいい天気、家に引きこもってなんていられない!」
 と思っているのじゃないかしら?
 同感、同感。

 暖かくなると、心が弾む。
 心が弾むとついつい笑みが零れる。
 
 思わずきょろりと見回して、
 「そろそろ、蜂でも飛ばないかしら?」
 「羽蟻はそろそろ来るのかしら?」
 と、考える。

 捜したいほど好きなほうではないのだけれど
 春めいた日には、
 小さな生き物達の賑やかな羽音が早くも恋しくなってくる。

 今冬はとても長くて寒かったから、
 しばらく音が少なくて、匂いを随分感じなかった。
 秋に枯れ落ち、冬に熟して、
 土が浮き浮きするような軽やかな香りをさせている。
 特に誰かが手入れしているわけじゃないのに、
 堆積された枯葉の土はふんわりしている。
 花の季節のせいかしら?
 この季節は土まで
 花の匂いがするような気がしてしまう。
 花ではなくて「春」の匂いなのかしら?

 歩いていると
 足をぐいっと伸ばしたくなる。
 背筋をギュッと反らしたくなる。
 手を、軽く握って、開く。
 目に見えない細やかな血管の一本一本が、
 昨日までより楽しげに血液を運んでいるような気がする。
 空気が柔らかくって楽しくて、呼吸をする度体が春に適応していく。
 
 先月、蕗の薹を食べた折
 ほろりと苦くて、目が覚めるほど華やいだ春が体中に広がった。
 あの蕗の薹が、春の目覚まし時計の役目をしたのだろうか?
 知らない間に、今日を随分待っていたような・・・・
 
 春色の服をした人を見た。
 Tシャツ姿の人を見た。
 昨日まで、首に巻かれていたマフラーが
 あっというまに季節はずれ、時代遅れのような気がする。
 
 もしも今日、新宿御苑に行けたなら
 きっと素敵なお昼寝日和。
 お日様に照らされて暖かくなった芝生の上に
 軽いブランケットを持参して
 Tシャツ、ジーンズでごろんとなって
 芝生と土の青くて甘いにおいに包まれて
 くぅくぅくぅくぅ
 眠りに行けばよかったなあ・・・・
 
 ああ、行けばよかったなぁ・・・
 起きたら芝生がチクチクとして
 髪の毛の中まで芝生が入って
 Tシャツはちょっぴり汚れたかもしれないけれど
 風は少し肌寒かったと思うけど、
 とっても気持ちよかったでしょうね・・・
 
 用事があったのは確かだけれど
 今日のように
 ほかほかの日は
 頭の中から春になる
  
 大雪に苦労されていた辺りでは
 この陽気、被害の進退はどうなっているのでしょうか。