エキシビションはやっぱりとても楽しくて!

 AM3時、まだ丑三つ時の終わらない頃。
 毛布を持って、そっとリビングへ忍び足。
 一番暗い明かりをつける。
 だれも起こしはしないよう。
 こっそりこっそりテレビをつける。
 画面から、トリノの明かりがこちらに零れる。
 フィギアスケートエキシビションを息を潜めて画面を見つめた。
 そしてあっという間に引きずり込まれた。
 世界の一握りの人が出れるオリンピックのピラミッドの
 とんがった先っぽのちょっぴりの人だけが出場できる氷の上の華やかな宴。
 最高の技術を持った人たちが、成績を気にせず思い切り好きなように滑る。
 記録を出す大会じゃないので、
 リンク上にライトでできた花が落ちる。
 海の色に染まる。
 椅子を持ち込む人、バイオリニストを連れてくる人。
 世界最高峰の人たちが、一身に滑る楽しさや美しさを満たして躍る。
 
 ふと、TVのこちら側を思う。
 AM3時〜の自分。
 AM1時からの誰か。
 PM10時の誰か。
 
 昨日にいる誰かと。
 同じ今日にいる誰かと。
 
 沢山の人たちと一緒に画面を見つめている筈だ。
 クロワッサンと目玉焼きを食べている人もいるかもしれない。
 思わず見とれて珈琲をこぼした人もいたかもしれない。
 いい加減に眠りなさいと起こられてる子も、
 寝ぼけ眼で見つめている子も。
 私のように毛布を抱えてみている人も。
 
 見ているうちに手がギュッと毛布を握り締めてる。
 素晴らしい選手達が最高の華やぎをここに、どこかに運んできている。
 どの選手(達)の演技を見ても胸が騒ぐ。
 目が釘付けで離れない。
 けれど、不思議とどのエキシビションも同じ胸の騒ぎ方にはさせてくれない。
 心を
 ぎゅっと掴んで振り回すように揺さぶる人。
 くすぐるように跳ねさせる人たち。
 嘘のようなめまぐるしさで、息苦しくさせる人。
 柔らかな優美さでゆっくりと虜にする人達。
 ぞくぞくとするような荒々しい楽しさに誘う人たち。
 こちらの鼓動を忘れさす人。

 そうして、時間を消してしまう人・・・・

 眼福で、耳福の時間はこちらの中に多くのものを咲かせて過ぎた。
 
 オリンピックは4年に1度。
 次にオリンピックを見るときは
 同じ選手を見ることはないかもしれない。
 同じ時、違う時刻に見ていた誰かが画面の中にいるかもしれない。
 
 4年の時は長いから
 夢見るように咲いた記憶をずっとしっかり留めておきたい。
 私の頭の記憶装置はきちんと覚えていてくれるでしょうか。
 
 ぴんと伸びた滑りの綺麗さ、付き従った影の形を。
 エッジが刻んだリンクの不思議な線の姿を、立ち上った氷の煙を。
 旋風のような楽しいスピンを。
 
 エキシビションは、やっぱり楽しい。