知りたくないけど、知らなきゃ怖い。

先日、
 韓国の友人とランチをしながら教科書についての話が出た。
 
 彼女は日本で小学校に通い、韓国で中高時代を過ごした。
 日本から韓国へ戻った時、教科書の違いに驚いたそうだ。
 いままで知らなかったことがごろごろ出てくる教科書が、怖いと感じたそう。
 日本が侵略をしていた時代のこと、他の国との関わり合いのこと。
 知らないことばかりで、教科書の何を信じてよいかわからないことがあった。
 と、そう言った。

 国の立場というのがあるから、
 日本にとって都合が悪いことは日本が隠し。
 韓国に都合が悪いことは韓国が隠しということはあるんだろうね。
 と言い合った。

 私は、日本の教科書が(少なくとも私が習った限りでは)
 そこまで韓国を貶めるものであったようには思わない。
 でも日本のことも、
 他の国のことも凄惨過ぎることは語らずできたかもしれないことは思う。

 多かれ少なかれ、韓国の教科書で批判される過去の日本の所業はあったのだろうとは思う。
 私はハングル語が読めないし、彼女もこちらには言わないけれど。
 一方で、そればかりでもなかっただろうと思う気持ちもある。
 
 普通の1対1の個人が喧嘩するのであったってそれぞれで見解が違う。
 国同士ならば、その末端で何が起こっていたか。
 上層部でなにが起こっていたか。
 全体としてみた時にどうだったのか。
 きっとそれぞれで違ったのだろうと思う。
 
 「歴史って必ずどこかで歪められるものよね」
 と彼女が言った。
 それは、確かなことだと思う。
 見方によって様々な真実があって歴史がある。
 どんな風にすり合わせていけばお互いの国が歩み寄っていられるのだろう。

 ひとしきり話した後、
 彼女は
 「日本は最近右傾化しててちょっと怖い」
 と言った。
 「どんどん戦争に向かってる感じだよね」と私も眉をしかめた。
 
 彼女は、盧武鉉ノ・ムヒョン)大統領が好きではない。
 私は(好きな方がいたらごめんなさい)小泉首相が好きではない。
 
 私の場合、彼が首相なのに大統領のように動いているところ。
 国会にあまり重きを置いているように思えないのが、好きではない一番の要因。
 外交から何から、戦争に向かうように行動しているように思えて苦手。
 彼女の場合、中国共産党とつながりがある(とは彼女の言)ことや
 外交へのバランスの悪さでやはり戦争に向かうようなのが嫌なよう。

 お互いの首脳のしていることで、いくらかは得るところもあるのだろうけれど
 どうもお互い上が癪に障るよう。
 そんな話ばかりでもご飯が楽しめなくなるので
 適当に切り上げたけれど・・・
 
 私は彼女から彼女の国の政治の話を聞くのが好きだ。
 日本からではわからない話、知らない常識がポコポコ出てくる。
 ニュースの中で言われていること。
 ニュースの中で取り上げられない向こうの気持ち。
 伝わらない言葉達。
 噛みあわなくても、決裂しなければそれでいい。
 彼女の言葉から、知りたいことは広がっていく。
 知らなくちゃいけないことも増えていく。

 この所、「マオ」という本を読んでいる。
 副題は「誰も知らなかった毛沢東」。
 ワイルド・スワンを書いたユン・チアン
 朝鮮戦争などについての著作もあるジョン・ハリデイの共著だ。
 中国では発禁処分になっている。
 
 その本の中で、毛沢東は人を殺す。 
 次から次に人を殺し、拷問に掛け、飢え死ににさせてゆく。
 何千どころか、何万、何十万の人々が次々に死んでいく。
 毛沢東がやってきた頃にいた何千人もいた町の住民が
 毛沢東がいなくなる頃には何百人になっていたなどという話がごろごろしている。
 
 情報操作の話も出てくる。
 人には主観がある。
 実際に毛沢東が生きていた頃から何年もの時が経ち、
 亡くなったことを多く見積もることや、
 大げさに言うこともあるだろう。
 たとえそうだとしても、話半分だとしても、凄まじいことだ。
 凄まじすぎて逆に話を小さく語ったのだとしたら・・・・
 考えたくも無い。
 
 友人が、中国共産党と関係があるというだけで嫌がる理由もうっすらわかる。
 読んでいると、隣の国なのに何も知らない自分を思う。
 友人のように地続きだと一層思うものはあるのだろう。

 「アカ」ということばが戦時中嫌がられたのは、共産・平等という考え方だからかと
 ぼんやりと思っていた。
 戦後、怖がられたのは日本赤軍のようなテロ活動家がいたからかと思っていた。
 (日本赤軍のこともわからないことだらけですが)
 でも・・・・
 そればかりではないのだろうとページをめくる。

 自他共に、人の3倍くらい早く読むと言われている私が
 この本は随分ゆっくりと読んでいる。
 怖くて早く読むことが出来ない。
 人がどんどん数字に変わる。
 数字は見る間に大きなものに膨れていく。
 
 これが全ての真実とは思わないけれど
 知らないと言うのは、本当に怖いこと。
 
 昨日上巻を読み終えた。
 なかなか下巻に手が伸びない。