雪で始まり・・・

 ササササと
 砂が零れるような音がしてドスンと音がした。
 細かい音がそれにバサバサと続く。
 今朝、椰子の梢から砂が零れてくるオアシスのリゾートのような気分で目覚めたら、
 外は雪の日本だった。

 窓からは、
 砂丘の代わりに隣の屋根から落ちてきた雪が山脈を作っているのが見えた。
 
 昨夜は寒かった。
 布団を温かくしてもなんだかゾクゾクするので、ずっと夜更かしをしていた。
 空は雪雲で覆われているのに、
 カーテンの向こうから青みがかった光が部屋の中に漂っていた。
 目を刺すでもなく、外から染みこんでくるような雪明かりは、
 冷たいけれどとても淋しそうで切なげで、水槽の中で見ている夢のような気がした。
 
 
 東京は昨日、朝から雪が降っていた。
 起きた時にはもう5センチは積もっていて、
 玄関先の新聞屋さんの足跡は
 降り続ける雪に紛れ込もうとしているところだった。
 
 次々に舞い落ちてくる雪は、見ているうちに大きくなって
 窓のこちらから見ていても結晶の1つ1つが見えてくるような気がした。
 樹枝状、砲弾、六花、十二花・・・
 雪の結晶の様々な形。
 
 (そういえば、
 雪の結晶に愛の言葉を聞かせたりすると結晶が綺麗になる
 というのは偽科学と聞いたけれども本当かしら。
 本当ならば、夢があって素晴らしいけど。)
 
 止みそうにない雪の中、出たくない寒がり名自分を押し込めて外へ。
 お洒落をして真っ白な雪の上を行くと、
 後ろに点々とヒールの穴が残った。
 
 赤坂には大好きな和菓子屋さんがある。
 渋谷には能楽堂がある。
 「だから、今日は行かなくちゃいけない」と念じて
 感覚が鈍る足を叱咤しながら、雪をどんどん踏み荒らした。
 昨日は私にとって初めての狂言day。

 渋谷のセルリアンタワーにある能楽堂で行われる公演に友人が誘ってくれたのだ。
 高校時代は歌舞伎が好きで、毎月毎月行ってたけれど、
 狂言は正真正銘初めて!
 しかも、友人のお知り合いの関係で、茂山逸平さんが取ってくださるとのこと!!
 ワクワクしないわけが無い!
 
 友人と、友人の友人と3人で伺うと、
 舞台の周りの椅子席の後ろのお座敷席のチケット!
 これって、歌舞伎で言ったら桟敷の席じゃないのかな?
 3人みんなで「こんな良い席いいのかしら?」
 と、ドキドキしながら感激していた。

 薄暗いお座敷の中には5枚の座布団が置かれ、
 椅子席の皆様との間に置かれた障子のこちら側から舞台を眺めることが出来た。
 舞台が始まると、座敷から足元30cm位を残して障子が開いた。
 (椅子席のある床から70〜80cm上の所にお座敷はあるので、
 座敷で足を崩す人がいても外からは見えないようにという配慮なのでしょう。多分)
 
 相席(相室?)の方が賑やかな私達に「どうぞ」と、
 笑って前列を譲ってくださって、
 私達は舞台をしっかり見ることができた。
 
 後ろには前列を譲って下さった方がいる。
 正座に慣れていない私も、座布団の上で頑張って正座をした。
 10分15分・・・挫折。
 真剣に舞台をやってくださっている方が目の前にいるのだから、
 正座くらいとは思ったのだけど、慣れていないと舞台に集中出来ない。
 
 折角の舞台。
 もぞもぞ、もぞもぞするのが勿体無くて、
 舞台をきちっと見られないほうが失礼だから、
 途中で「ピシッと正座」は諦めた。
 今度観劇する時は、もう少し長く出来るようになっていたい。
 
 人間国宝でもある千作さんのユーモアたっぷりなのに崩れない洒脱な姿、
 逸平さんの張りのある声、千之丞さんと七五三さんの素敵な掛け合い、
 千五郎さんのニヤっとさせられてしまう素敵な落ちに、皆様アドリブのお願い事の数々・・・
 
 雪のせいで、開演15分前に到着されたことなんて欠片も見えない公演だった。
 会場内は、雪が降っても大入り満員。
 初めての狂言でこんな素敵な贅沢をしてしまったら、
 次に中々来られなくなってしまうんじゃないかとちょっぴり不安になった。
 歌舞伎と比べると都内での公演回数は格段に少ない狂言だから、
 きっと行ってしまうのだろうけど・・・。
 
 1部終演後、少しだけ楽屋にお邪魔して
 ささやかな御礼にどら焼きをお渡しした。
 本当にお忙しい所だったのに、逸平さんは出てきてくださった。
 どれだけ楽しかったか、嬉しかったか、
 緊張してきちんと伝え切れなかった気がする。

 そんな機会をくれた友人に、そして融通してくださった逸平さんに心から感謝を捧げます。
 本当に素敵な時間でした。
 
 観劇後、
 差し上げたどら焼きのお店の名前は「雪華堂」。
 甘納豆も最高に美味しいお店。
 どら焼きを召し上がるならAM11時が焼き上がりなのでお勧めです。
 帰宅後は家の雪かき作業。 
 昨日は何かと雪が顔出す一日でありました。
 (本日は筋肉痛也)

 東京の雪は、1日掻いて筋肉痛で済むけれど・・・