梅の香りに酔わされたくて

昨日、
 原宿駅に降りると
 とろりとした梅の香りが広がっていた。
 
 暖かな日差しに醸されたような不思議な香り。
 頭の芯がとろとろとろと、気持ち良さそうに溶けていく。
 
 よっぽど日当たりが良いんだろうか。
 我が家周辺の梅の木はまだ蕾を花に変えてはいない。
 その香りがどこからきているのかと見渡しても
 梅の枝は蔭も形も見えない。
 
 風はそよそよと
 あちらからも、こちらからも香りを運んでくるのに
 木の場所を辿らせるような運び方をしてくれない。
 仕方が無いので
 風が吹くたび、心行くまで香りに浸った。
 香りの元を捜すより、今の香りを楽しまなければと心が欲するそのままに。

 時々、
 電車がゴォっと走ってきて、古い香りと新しい香りを入れ替えていく。
 電車はどこからか香りを積んで、どんどん遠くへ香りを運ぶ。
 まだ梅の咲かない所まで、電車は香りを運んでくれるだろうか。
 ドアが開いて、ドアが閉まって。
 するりと電車に乗り込んだ香りは、一体どこまでいくだろう。
 雪のあるところまで行くだろうかと考えたけれど、やっぱり山手線では無理かもしれない。
 香りに意識的な乗換えを求めるのは・・・どうにも無理が出てしまう。
 
 梅は初春の象徴だけど
 実際、香りに触れた端から冬の名残が解けて消えていくような・・・。
 ゆったりと、香りの中で呼吸をすると、
 血管の隅から隅まで泣きたいような幸せな香りに占領される。
 そんな気がする。
 気持ちがよくて、もっともっとと梅の香りがほしくなる。
 香りに誘われるまま、太陽の毛布をかぶって
 根元でゆったりと眠りたくなる。
 
 桜は大勢。
 桃は家族で。
 梅は親友と2人っきりで。
 
 香りの無い桜の花。
 香りの有る梅の花。
 楽しみ方はやっぱり違う。
 
 だあれもいない梅林で大好きな友人と
 何にも話さず
 ゆっくりとじっと
 香りと花を味わってみたい。 
 
 梅、桃、水仙沈丁花に金木犀
 いつも心待ちにする香り。
 特にこの時期は、梅の花。
 お酒に酔うより花の香りに酔いたくて。
 目も鼻も、梅の花ばかりを捜してる。

 いつか、いつかは
 誰もいない梅林に行きたいけれど
 名だたるところは、どこも人混みに酔わされる。
 
 我が家の小さな梅の木は、あと幾日で咲くだろう。