初めてのクリスマス。

 空を見上げると、夜空の中で金星が月よりも明るく光っていた。
 あんまり明るいから、一瞬ヘリコプターかと思った。
 まるで夜空に豆電球を点けたよう。

 電気のない頃、
 金星はどれだけ明るい星だったのかな。 
 頭上には他にも多くの星が輝いているのに、
 金星は星でないのでないかと思うほど明るさが違う。

 金星=明星。
 昔の人はどんな思いでその名前を付けたのかしら。
 
 寒くて指先に息を集めた。
 自分の息の音が思ったよりも響く。
 空気も道も凍えているのだろう。
 街灯に照らされた指先は、寒さに染まっていた。
 
 クリスマスまであと2週間ほど。
 街のあちこちで華やかな飾り付けがされ、
 弾むようなクリスマスソングが
 寒さで重くなりがちな足音を軽やかなものへと変えている。
 
 クリスマスが近くなると、
 「サンタクロースをいつまで信じてた?」
 と、よく聞かれる。
 そんな時、私は笑って言葉を濁す。
 
 「こんなに大きな靴下を枕元に置いていた」とか、
 サンタクロースがくれたカードを見て
 「日本語が出来るなんてすごいと思ったの!」と
 友人たちは身振り手振りを交えて語る。
 私は、そんなトラウマ(?)を持つ友人達が時々ちょっと羨ましくなる。
 
 私のクリスマスの記憶は、
 父が大きな袋を背負って家に帰ってきたことから始まる。

 家には一緒にクリスマスを・・とお誘いした私の幼稚園の友人の御両親と、
 大好きな友人姉妹が来ていた。
 私はまだ3才か4才。

 友人の家族はとうに来ているのに、中々父が帰ってこない。
 友人と遊び疲れ、お腹が減っても、
 父が帰ってこなければご飯を食べることが出来ない。
 「遅いね」「おかしいね」と言い合いながら、
 友人と窓に息を吹きかけては手で擦って外を眺めた。
 待ちくたびれた頃、
 父は私達が5〜6人は入りそうな大きな袋を担いで帰ってきた。
 
 「何?」「何?」と、私達がまとわり付いても
 父は「後で」と笑うだけ。
 あんまり大きくてツリーの下・・・というより脇に置かれた真っ白な袋。
 美味しいごはんが沢山あったと思うのに、そればっかり気にしてしまって
 食卓の上のことは殆ど思い出すことが出来ない。

 食後、父は袋から次々にプレゼントを取り出した。
 友人の御両親に、母に、そして子供達に。
 私達へのプレゼントは、一抱えはあるふかふかの可愛いクッション。
 皆であれが良い、これが良いとじゃんけんをして選んだ。
 そして、寒い外気を遮断した窓の中で、
 自分のものになったクッションをギュッと抱きしめた。
 ツリーの明かりがチカチカと光り、金銀のモールがその輝きをそっと床に落としていた。
 

 これが、私の一番最初のクリスマス。
 大好きな思い出だけど、父からのプレゼントはサンタクロースを知るよりも前。
 プレゼントは貰うのも上げるのも大好きな我が家らしいと言えばそれまでだけど、
 少しだけ、サンタクロースを夢見る時間も欲しかったな。
 なんて思ったりもする。

 とても贅沢な話だけれど・・・。


 初めてのクリスマス、覚えてますか?