オオタカは東京にもいた

 歩くたびに落ち葉がばさばさと足元で音を立てる。
 先日まで頭上を覆いつくすほどだった葉が、
 今は地面を埋め尽くしている。
 センチはありそうな落ち葉の層が、
 舗装された道の上にも、地面の上にも出来ている。
 風の吹き溜まりには小さな子が2〜3人は隠れられるほど大きな落ち葉の山が出来ている。

 きっと、もう何百人もの人がこの道を通ったのだろう。
 落ち葉の層の一番底。
 地面に接した辺りはもう葉の原型をとどめないほど粉々になっている。
 樹上では赤や黄色の色彩を誇っていただろうに、
 足元では全て枯れ色に転じている。
 早くも土に戻る準備をしているようだ。

 足先で少し蹴飛ばすように荒々しく落ち葉の層を乱すと、
 この季節にしか味わえない贅沢な木の葉の香りが広がった。
 まだ土でもなく、葉である最後の時を彩る香りは、
 喩えようもなく美味しい。
 
 歩いていたらふと、気になる集団を見つけた。
 大きなカメラを構え、双眼鏡を持って、じっと同じ方向を見据えている。
 そうして、代わる代わる一番大きなレンズを覗き込む。
 
 ただの野鳥の会にも見えなくて、
 「何が見えるんですか?」と声をかけた。
 
 「たかだよ」
 「え?」
 「オオタカがいるんだよ!」
 「ええ!」
 
 これが東京でなかったらそんなに驚きはしない。
 でも、東京。
 自然が多い方とは言っても・・・深山幽谷・・・では全く無い。
 まして、みなさんが覗いていたのは公衆トイレの裏の竹薮。
 鷹がいるなんて想像できる筈もない。
 
 「ほら、ほら、覗いてごらん、見えるから」
 と、一番大きなレンズの前でおじさんが手招きをしてくれた。
 覗くと確かに鷹がいる。
 下にある何かをついばみながら、時々こちらをクッと見る。
 「1週間くらい前から見るようになったんだよ」
 と、カメラにとても長い望遠レンズをつけたおじさん。
 「さっき鳩を捕まえたのよ」と、双眼鏡をもったおばさま。
 
 鷹は強い金色の瞳をしていた。
 「これを見てよ。あのヒマラヤ杉の上にいたんだ」
 と、望遠のおじさんがデジカメの映像を見せてくれる。
 横顔、正面、後姿に飛ぶ姿・・・
 胸元にも綺麗な鷹の羽の模様があると言ったら、
 大人になると横縞になるんだ。
 今はまだ2歳位の幼鳥だとおじさんは笑った。
 今の模様はもう少ししたら全く変わってしまうと。
 
 「さっき獲物を捕まえたばかりだから、後40分くらいは多分飛ばないわ」
 と、おばさまがメモ帳を片手に言った。
 その辺りで見かけるようになってから、食事の時間をしっかりとメモしているのだとか。
 猛禽とは言っても鳥は鳥。
 食事は啄ばんで行われるから1時間近く掛かるらしい。
 
 オオタカがどこから来たかは知らないけれど、鳩の多い公園のこと。
 その姿を見かける機会はまだしばらくはある筈だ。
 先住民の鳩にとってはとても恐ろしいとは思うけれど。
 あの凛々しい姿が見られるならば私は嬉しい。

 それにしても、
 オオタカがここに来た理由は何だろう?
 ただ餌が多いだけならよいけれど、
 住めなくなって逃げてきたのだったら・・・・
 それはひどく人間として申し訳ない