6時半を過ぎた頃。
 
 東の空では透き通るような桃色の光が、
 綿菓子のように散らばった雲の間を躍る様に染め、所々に紅の火を散らしていた。
 月は西の空に見当たらず、藍色の夜が楚々として残っていた。
 
 明るくなってきた空とまだ暗い空の境目にポツンと星が1つ。

 高速へ向かう車の中で、どこかの小学校の前を通った。
 住宅街の真ん中で盆地のようになった小学校の校庭は、
 地面から1mほどの高さまで、真っ白な朝靄に覆われていた。
 子供の背丈に合わさった鉄棒も、その脇にある砂場も、
 雲海のような靄を通すとぼんやりとした輪郭しか見えない。
 校舎の向こう側からうっすらと刺して来た朝日は、
 靄をふんわりとした朱金に染め上げていく。
 小学校の先生なのか、校庭の向こうに自転車を漕いでいく影法師が見えた。
 
 朝日が当たった所から、靄はふわふわと佇むのをやめて透明な空気に溶け込んでいく。
 子供達が来る頃には、この幻想的な風景も消えてしまうに違いない。
 白い世界の向こう側から、自転車のベルの音が聞こえたような気がした。
 靄が消える前に、私達の車は学校の前を通り過ぎていった。
 たった1日前のこと。
 

 江戸〜昭和のはじめにかけて、靄や霧は江戸・東京の冬の代名詞の1つ。
 昔の人はいつもこんな風景を見ていたのだろうか