北斎展へ行きますか?

守衛さんの脇を通ると、ザザッと風が吹いて落ち葉を撒き散らした。
 東京国立博物館ユリノキは今、華やかに黄葉している。
 広場の真ん中に一本と言うのは淋しげに思えることもあるけれど、
 このユリノキは博物館前の広場にのびのびと聳え立っている。
 
 博物館の木々をどんな人が手入れしているのかは知らないけれど、
 ここの木を見るといつも「気持ち良さそう」だと思う。
 この時期はやはりユリノキの見事な黄葉が主役なのだろうけれど、
 まわりの木々たちもそれを喜んで見つめているみたいに見える。

 まるで
 周りの木々が広場の真ん中にいるユリノキと離れているのは、
 「植木屋さんが動かした」というよりも、
 「ユリノキの艶姿をゆっくりと楽しみたくて勝手に木が動いたんじゃないか?」
 と思えてしまう。

 そう思わせるような職人さんがいて、
 それを最高の状態に維持している職人さんがいるのだな。
 と、改めて嬉しくなった。

 博物館に行った目的は北斎
 古伊万里も見たかったけれど、
 9:1・・・ううん、9.5:0.5の割合で北斎に目が行っていた。
 世界中から集まった葛飾北斎コレクション。
 まるで詳しいわけじゃないけど、
 画集を見かけてはつい、じーっと見つめさせられてしまうのだもの!
 観にいかなくちゃ、だめでしょう!
 と行ってきた。
 
 圧倒された。

 あれは1度や2度で見るものじゃない。
 4度、5度、6度、・・・・と、何度も行くべき。

 ただの「500点」という展示じゃないのです。
 500点の内、いいのが数点という展示会じゃないのです。
 一人の人が、いくら長生きをしたからってこんなに書けるものなのかと思うような量と質。 
 
 本当は
 あの中の3枚位が1日に楽しめる限度なんじゃないかしら?
 そんな風に思えてならない。

 浮世絵だから数がある・・・と言ったって、それぞれに元絵を描いている。
 あれも、これも、どれも、それも
 「他の人が一杯いるから、ここのを見るのはあきらめよう」
 そんな風に思えるようなものじゃない。
 通勤のラッシュなんか目ではないような人ごみの中、
 みんなじりじりと北斎の絵に近づいていく。
 
 後ろで待っていようが何しようが、
 前に立てばついついじぃっと覗いてしまう。
 だからいっそう人だかりが多くなる。

 筆で描かれたとは信じられない細い線。
 ぐぐっと描かれた迷いのない筆のあと。
 墨を水でにじませた雰囲気のある影。

 西洋の技法、西洋の色をどんどんと取り入れて自分の絵にしていった北斎
 風景画というジャンルを日本で確立させた北斎
 偏屈で、引越しが好きで、
 格好付けるひとが嫌いで、店屋物を食べていた北斎
 病気になったら自分で作った薬で自分を治した北斎
 現在の漫画の基を作ったと言われる北斎
 奥さんが亡くなった時には香典で美味しいご飯を食べに行って、
 死んだものより生きているもののほうが・・・
 と言った北斎。 
 6歳から絵を描きだし、20歳で画壇デビュー、90歳まで現役だった北斎
 70歳になってやっと納得した絵が描けるようになったと言った北斎

 
 今、博物館はとにかく混んでいる。
 国内、海外、津々浦々。
 多くの人が押し寄せている。
 開館すぐに行かなくては、混み過ぎて何時間も寒空で待たされる。
 見終われば、集中力が擦り切れたようになっている。
 人波に飲まれ、目が回る。
 外に出れば思わずため息をついて空を見上げて「青いなぁ」なんて呟いたりする。
 
 今回の展示は、それだけの力を持っている。
 
 それだけの
 見る価値がある。
 
 あなたの住んでいるところが近くでも、遠くでも
 行けるならば是非。

 東京国立博物館は9時半から開いています。
 会期は12月4日まで。
 
 
 観た後に甘いものが欲しくなったらば・・・・
 桃林堂がお勧めです。
 博物館を出て、正面の道をそのまま右にずんずん行くと角にある和菓子屋さん。
 小鯛焼きも名物ですが、現在栗蒸し羊羹が素敵です♪