モチーフの違い

 今日になってまたぐんと冷え込んだから、
 目に入る山茶花の花を掴んだら
 薄い硝子の様な音を立てて壊れてしまうような気がする。
 耳の奥がキンと痛んだ。
 
 ちょっと影に入るとそれだけで気温の変化を感じてしまうから
 できるだけ日向の中を選んで歩く。
 木枯らしに思わず首をすぼめると
 道路に鮮やかな色彩が咲いていた。

 北風に飛ばされないよう、
 か細い足でアスファルトにしがみついているそれは
 蝶なのかもしれないし蛾なのかもしれないし。
 
 風に煽られて開かれた羽の内側は鮮やかな瑠璃。
 太陽が昇ったばかりの空の色。
 人が訪れない楽園のような海の色。
 
 赤や黄に染まった葉。
 茶色の木立アスファルト
 秋に染まった世界の中に無い色だ。

 思わずぼんやり見惚れてしまう。
 おそらく蛾だとは思うけど・・・・
 
 なんとはなしに
 日本では蛾より蝶が好まれるけれど
 欧米では逆なのだと以前聞いたことを思い出す。
 確か蛾は色彩が華やかなのと夜のものだから
 夜会などのアクセサリーのモチーフによくされたとかなんとか。
 本当なのかな?
 日本人なら確かに蛾よりは蝶をモチーフにしそう。
 蛾はアクセサリーにするには
 あまりよいイメージが無いような気がする。
 (蚕はイメージ悪くないかもしれないけれど、アクセサリーには・・・)

 あまりイメージが良くないものをアクセサリーにする。
 けっこうヨーロッパでは多いこと。
 グロテスクと言っても良い位にリアルなトンボのブローチ、
 蜥蜴の腕輪、タランチュラの髪飾りに、蠍のネックレス・・・
 
 自分のものにならなくたって綺麗なものを見るのは楽しい。
 たまに街歩きの合間にアンティークショップのウィンドウを眺めると
 ヨーロッパに生きていた女性達の様々なものが所狭しと並んでる。
 
 個人的にはあまり得意じゃないものから、これは好きというものまで。
 日本人の根付や帯止めにも虫や蛇が彫られていることは多いけど、
 どちらかと言えば身近なもの。
 虫かごなどで可愛がられているイメージの良いものが多い。
 後は神性のあるものとか・・・。

 「秋、庭に面した縁側に人が座っています。
 この方は何をしているでしょう?」
 という質問に
 「虫の声を聞いている」という日本人と
 「人を待っている」と答えることが多い欧米人では
 研究者は別にして
 元々虫との距離が違う。

 距離の違いは
 宗教的なこともあるのかもしれない。
 キリスト教などでは人とその他は大きく違う。

 だから
 ヨーロッパでは虫などをモチーフにする時には

 忌避されているものをアクセサリーにすることで
 毒を毒で制す。
 「災いがこないように」というお守り的な要素が色濃く出て
 虫や爬虫類は嫌にリアルに、生々しく、
 どちらかと言えばより毒々しさを付け加えたものが多くあるのじゃないかな。
 (勿論貴族の女性向けなので上品なのですが)
 
 虫との距離感の違いが、
 装身具の表現にも出ているのかもしれない。


 そんなことを思った。
 
 そして、今日(11月15日)こんなことを思います。
 「毒をもって毒を制す」のが欧米ならば
 「力を持って厄を祓う」のが日本ではないでしょうか。

 例えば日本の鬼瓦。
 鬼って実は、醜いもの。怖いもの。そして神ですよね。
 それを屋根に取り付けて、自分の陣地(家)に入ってこないようにする。
 鬼の顔が迫力のあるものであればあるほど祓う力は大きいのだとか。

 ・・・・でも、あれって追っ払うだけで厄をなくしているわけじゃないですよね。
 家の中にただ入ってくるなとしているだけ。
 力のあるものがいれば、怖がって来ないっていう相手の行動を期待したお守りな気がします。
 欧米のほうは入ってこようとするものを、毒で倒すつもりであるような感じ。
 
 う〜ん、アクセサリーというカテゴリーを出て
 鬼瓦なども比べるものに入れてしまうと、
 欧米のものよりも日本が求めているものはソフトだけど
 やっていることはちょっと似てくる。

 厄とか災いとかよくわからないものに対したとき、
 人間がするのは強そうなものにとりあえず頼ってみるってことなのかしら?

 祓うか、制するかは別にして
 鬼瓦=毒をもつ生き物のアクセサリー
 とすると、日本人の家意識ってものも見えてくるような気がする。
 もっとも守るべきもの。
 一番怖い顔(?)したものをどこにおくかってことで。
 「何を重要視したか」って。
 
 そこまで考えたら、刺青のことを思い出してしまった。
 あれも一種のお守りで、鬼とか竜とかのモチーフが多い。

 そう考えると一番効果の高いものは日本人も個人にあるのだから、
 上に書いたことを全部ひっくり返さなくちゃならないか一瞬思ったけれど、
 あれを彫った人って、一家の大黒柱。又は、一家を支えるぞって強い意志がある人だったはず。
 支える人間だから厄が掛からないようにっていうものだったんじゃないかな。
 もともとは・・・・
 

 なんて考えもするのだけど、
 よくわからないことだらけです。
 
 ああ、虫の話から随分離れてしまった・・・・
 

 
 
 


  
 (欧米にも家の前にグリフィンやユニコーンなどを置く事があるけれど
 もう少し人間に利益をもたらすというか、神獣に近く、綺麗・格好いいのイメージで守り神に近い。
 どちらかといえば鬼のように人間に害を及ぼす感じのものは少ないので、上には書きませんでした)