花水木とブランコ

 花水木の
 赤錆を混ぜたようにくすんできた葉の間から
 赤い実がちょこりと覗く。
 
 そのちょっと見える赤が不思議に鮮やかで、
 薄暗い曇天の中、妙に目が行く。
 
 道に一枝落ちていたので
 持って帰ろうと思ったのけれど
 手に取ったらポロリと実が落ちてしまった。

 実は灰色のアスファルトの上で2回転がって、
 歩道の白線の上で動きを止めた。
 
 私が幼稚園の頃、
 花水木はブランコの脇に生えていた。

 私達の何代か前に花水木組があって園長先生が植えたのだ。
 
 そのブランコは、2人しか使えないこともあって、
 欅と欅の間を渡した縄梯子や、
 廃バスを利用したお座敷バスに負けない人気スポット。
 休み時間になると、いつも場所取りに走った。
 
 座席がオレンジの小さなブランコは
 公園にあるブランコよりも軽やかで、
 小さな体でも
 ぐいぐい上へと持ち上げてくれる。
 
 もっと、もっと、もっと・・・

 足にぐっと力を込める。
 鎖を掴んで体をぎゅっと反らす。
 しゃがんで、伸びる。
 またしゃがむ。

 気持ちに押されてぐぐっと漕いだ。

 髪の毛が、ばさばさと顔を打つ。
 自分が通った後を一生懸命追いかけてくる。
 耳の脇を通る風が、どんどん強くなる。
 見ているものが、だんだん空に染まっていく。

 ブランコの一番上。
 地面と平行に近くなる時だけ、
 ブランコのオレンジの座面は
 ほんの少し花水木の葉っぱに触れた。
 
 その瞬間が好きで、私は何度もブランコを漕いだ。
 平行になったときの、ふわっと浮かび上がるような感覚に
 無重力ってこんなかな?
 と、思ったりしていた。
 
 あんなに夢中だったのに、
 最後にブランコに乗ったのはいつだったのだろう・・・
 
 

 

 何年か前、
 そうしたブランコの漕ぎ方が問題になっていた。
 漕ぎすぎて、鎖が支柱から外れてしまうとかで、
 何人も事故にあっていたらしい。

 ブランコって、自分を空に放り出していくような楽しさがあるけれど
 実際に放り出されたら堪らない。
 子供に「これ以上はやらないでね」って言っても、実際に夢中になってるときには
 そんなこと忘れてしまう。
 
 以前回収されていた児童遊具の数々・・・
 バスケット型(?)ブランコや、16角形のぐるぐる回るジャングルジムのようなもの。
 みんな今はどうなっているのかな?
 その遊具のあった後の場所にはどんなものがあるんだろう?