「ユリイカ!!」〜右を見つけた日

 今朝7時。
 パチンパチンと音がして、
 ザザザ、ドスンと何かが落ちた。
 衝撃で、床が少し身じろぎをした。

 裏の御宅に植木屋さんがきているようで
 カーテンの向こうから軽やかに鋏の音が続く。

 パチ、パチ、チョキン。
 パタ、ポト、ザザン。

 何時から始めていたんだろう。
 鋏に続いて落ちていく音が段々軽くなってきた。
 裏のお家の木々たちは、もう半分以上すっきりしている。
 
 最近、どこかしこで植木屋さんの音を聞く。
 秋はお手入れの季節なのかな。
 曲がり角を曲がるまでの間に、3ヶ所4ヶ所と木の上にいる人を見かけることもある。

 手入れをしている人を見ると
 いつも以上に木々や葉っぱの様子が目に付く。

 椿の葉っぱは、
 黒味を帯びた深い緑になってきた。
 オシロイバナは、
 真っ黒でしわくちゃのまあるい種を可愛い緑の冠に入れて差し上げている。
 朝顔の蔓には、
 ぷっくりと脹らんだ実が葡萄のように固まってついている。
 蔓を振ったら鈴のようになるのじゃないかしらと思いながら実を割ると、
 記憶通りの種が4つ、ころんと出てきた。
 朝顔の種は、球を4つに割ったみたいで面白い。
 あの形を見て、
 デザートに出てくるオレンジや、じゃがいもの揚げたのを連想するのは私だけかな。

 今日も空は高くって、空気はぐんと澄んでいて、
 鳥が気持ちよく鳴いていたから・・・・
 
 小学校1年生のある日のことが、突然ひょいと思い出された。
 
 「あの角を、右に曲がって、左に曲がって・・・」
 友達の家の道順を呟きながら交差点に差し掛かった時。
 
 突然、道を間違えた気がした。
 「右に曲がって・・・左?右?」
 一体どっちに進むんだっけ?
 来た道を振り返って、考えた。
 
 「お箸を持つ手が右だから・・・あれ?」
 振り返ったら、右が左になっている。
 あれれ?
 もう一度、前を向く。
 今度は、振り返った時の左が右に・・・
 あれぇ〜?
 
 前を向いた時の右。
 後ろを向いた時の右。
 どちらの右が正しいのかなと、交差点の真ん中でくるくる回った。
 車の来ない住宅街。
 眼が回って、交差点の真ん中でへたり込んだ。

 北や南は、私がなくても北や南。
 でも、
 右は、私がいるから右になる。
 交差点の真ん中で眼をまわしながら、
 私は興奮が止まらなかった。
 
 「ユリイカ!」と、
 アルキメデスは、叫んだ。
 「我、発見せり!」

 私も、叫びたかった。
 右っていう方向はない!私という中心があって、右があるんだ!
 見つけた!!って・・・。
 でも、言葉が見つからなかった。
 興奮が、胸の中でジタバタしていた。
 
 小学1年生に語彙はない。
 今だって、あの驚きを表す言葉が見つからない。
 他の人にはどってことない発見だったと思うけど、
 その発見に、今も私はドキドキしている。
 
 あの日、私は右を見つけた。