ハンモックで眠りたい

 とろとろと、陽光がとろけそうになってきた。
 朝、窓に入ってくる光は包み込むように柔らかで、
 なかなか起きる気力がでない。
 
 寒くなった夜の気配が残る部屋では、
 お日様は目覚ましでなく、安眠暖房機に近い気がする。
 眠りの中に留まりたい気持ちに加えて、
 お日様があたって布団がどんどんふかふかで寝心地のよいものになっていく。
 あの心地よさから
 自分の意思で離れなくてはいけないなんて・・・

 自分に対する一種の暴力じゃないかと、
 たまに思う。

 夏のお日様は「朝だ〜!」と勢いよく訪れてくるのに、
 秋のお日様は遠慮がち。
 冬になったら・・・
 「起きなくてもいいんじゃないの」と誘惑してくる。
 今は抵抗できても、冬の訪れがとても怖い。

 ゆらゆらと、睡魔に揺られる朝の時間。
 通りすがりの犬が、鼻を鳴らしてくしゃみした。
 外気はとても乾燥している。

 肌が少しぴりりとするほど寒いのに
 そこここにある陽だまりのせいかしら
 とろりとした眠気が、まるで尻尾のようについてくる。
 
 眠たかったせいなのか、
 昨日見た乳母車を思い出した。
 
 子供がしっかりとはまって固定されるタイプではなくて、
 普通の乳母車の座面に布があてがわれて
 子供の座るところがハンモックのようになった乳母車。
 
 技術革新は色んなところで進んでる。
 普通、子供はシートベルトで固定されたままだけど、
 その子は乳母車のハンモック(?)の上で気持ち良さそうに眠っていた。
 ハンモック風のいいところは、
 身じろぎや寝返りをしても下がついてきてくれること。

 すやすや眠る赤ちゃんの顔を見ながら
 昔、ハンモックで眠りたかったなと思い出す。
 
 椰子の木と椰子の木の間に紐を渡して、ゆらゆら。
 あの網を編んで家でやりたいと思ったけれど、
 子供の体重を支えられそうな突起も柱も家にはなかった。
 
 確か中学生になったかならないかという時、
 旅行先で初めて本物のハンモックに出会った。
 
 理想通りの真っ白なハンモックが椰子の間に揺れていた。
 乗らせてほしいと頼むと、笑顔が返ってきた。

 旅行の間中、私は何度も何度もハンモックの上で眠った。
 編まれた紐はたまに痛かったし、
 まだ小さかった私の手足はハンモックの穴から外へ出てしまうことも多かった。
 
 でも、
 波の上で遊ぶようにゆすられるのに加えて、
 網目から柔らかな風が吹き上がってくる心地よさに比べたら、
 そんなのはどうでもよかった。

 上手く乗れるようになるまで、擦り傷やたんこぶとは随分仲良くなった。
 乗れるようになってからも、
 体重を掛けるところを間違えて振り落とされた1度や2度ではない。
 寝ぼけているところを地面に叩きつけられると・・・かなりつらかった。

 ハンモックとのお付き合いには、色々と段取りが必要なのだ。
 想像以上に苦労したけれど、思った以上に心地よかった。

 眠いせいかな、なんだか妙に思い出される。