落選、その後の生活は・・?

 窓の外からは、細い雨が柔らかく地に降る音がする。
 ゆっくりゆっくりと夜気が冷えてゆく。
 そうして、夜が更けるに連れて静かになっていくのがいつものことだけど、
 今日は、選挙でTVが熱い。

 深夜1時20分。
 近所の家からもTVを見ている気配が感じられる。
 正直、私は自民党がこんなにも圧勝だとは思わずTVの前でぽかんとしている。
 TVの下の方で展開される数字は、はじめて見るものだ。

 これからどうなっていくのかな。
 とりあえず郵政は民営化に向けて大きく動いた。
 どんな風に民営化されていくのかな。
 気になるところだけど、今日私達の手から権力は移った。
 あとは見守りながらお任せするしかない。
 当選した政治家の方々には、良いほうへ進ませていくよう頑張っていって欲しい。 

 ふと、何年か前に友人に聞いた話を思い出した。
 彼はその年、卒論もほっぽって
 ある政治家の私設秘書に就職した。
 
 毎日毎日、地元の方のお話を伺い、手助けをし、毎日のお辞儀で腰を痛めたり、
 選挙中も夜中遅くまで勉強会で、毎日寝不足・・・等々。
 「本当に、体力と根性と、理想と、行動がなければ選挙はできない」
 と、選挙中に10キロも体重を落とした彼は言っていた

 彼の先生はその時の衆院選に当選。
 彼は安心して先生のサポートを務めることになった。
 
 私が思い出したのは、その後の話。

 衆院選後の彼の最初の仕事は、参院選のお手伝い。
 先生と同じ党員の方の選挙戦を手伝った。
 早朝、駅にたつ候補者の横で旗を持ち、スケジュールを管理して・・・。
 
 そして、彼はひどく心に残るものを見た。

 その年の参院選が始まったのは、衆院選との間に1週間も無いような時。

 同じように同じ党員として手伝いに来た人の中には、
 衆院選に敗れたばかりの候補者もいた。
 その候補者は、
 参院選に立つ候補者を殆ど寝ずにバックアップ。
 昼の時間には家で握ってきたおにぎりをほお張りながら
 FROM A(アルバイト情報誌)を読んでいたそうだ。

 食い入るようにページを見つめる落選候補者に、まるで余裕は無かった。
 彼の声はまだ衆院選で枯れたまま、
 続く寝不足で目は真っ赤。
 「落選者の秘書は秘書で失職だから大変なのだけど、落選した候補者の方がある意味切実だよ」
 と、友人はいった。
 内幕を見た人の言葉は重い。
 
 先生、先生って言われていても、選挙に落ちたらただの人。
 秘書は、失職しても再就職先を探せばいい。
 秘書という技能も高いし、どこかの正社員になることも可能。

 でも・・・落選候補者にそれは出来ない。
 政治家としての活動を続ける限り、
 「選挙はいつ起こるかわからない」。
 極力、いつでも辞められるようなアルバイトでなければいけない。
 と、その元候補者は言ったそうだ。
 
 政治家の技能は何だろう?
 政治について話して、働いて?
 扱いづらくてなかなか雇ってもらえない。 

 候補者には既婚者も多い。
 アルバイトではとても生活していけないのじゃないか?という年齢の方もいる。
 共働きで、落選期間中は奥さんに養ってもらっているという人も多いそうだ。
 沢山のバックアップしてくれていた人たちも、
 さすがに落選候補の生活費を持つことはまずないだろう。
 みんな「当選者」に、生活の行く末を任せたいのだから。

 候補者の多くは選挙資金として自分の懐からの持ち出しをする方も多いので、
 落選で借金を背負ってしまう人もいるらしい。
 「政治家になる為に田畑売って、家売って・・・」
 「政治にはお金が掛かる」
 昔から言われていることだけど、本当にそう。

 「俺さ、お握り食べながらフロムA見てるの見ていたら、なんだか涙が出てきたよ」
 と友人は言った。
 その話を聞いていた私も切なくなった。

 選挙が終わるたびに、沢山の落選者も出る。
 政治家経験があると、使いづらいと履歴書ではねられることも多いらしい。
 勿論、候補者がベテランで、実家が潤沢な方はそんな苦労をすることもないのだろうけれど・・。
 
 明日以降、またかなりの政治家達が傷心のままアルバイト情報雑誌をめくることになるだろう。
 政治家も、食べていかなくては生きていけない。
 
 アルバイト紹介などの互助努力はあるらしいけれど
 ・・・全員分のアルバイトの空きがあるわけじゃない。

 選挙の度に思い出す話だ。

 今年、彼の先生の所はどうだっただろう・