夜が明るくなったので・・・



 最近、気がつくと蝉が道の上にいる。
 8月ももう半ば過ぎだ。

 夜に蝉の声を聞くようになったのはいつの頃からかな。
 1年、2年といったことじゃない。

 まだ本当に幼い頃に、
 「あら、街灯に蝉・・・夜なのに鳴いているわ」
 なんて夏祭りの帰り際に母が呟いたのを覚えている。
 
 初めて浴衣を着て、
 金魚の尻尾のような帯を締め、
 足元で下駄がカラコロと楽しくて・・
 あんず飴や綿菓子で顔をべたべたにした日に。

 今は
 せみが夜に鳴いても全く不思議な気がしない。
 電気の灯った夜が明るくて、
 蝉の鳴く時間が長くなったのだと言われている。

 あの時
 蝉がしがみついていた街灯。
 昔は近所のおじさんが夕方になるとスイッチを入れていたけれど、
 今は自動に灯りがともる。
 
 蝉は長い間土の中で生活し、
 短い夏に伴侶を捜す。
 オスは鳴いて懸命に自分をアピールする。
 
 元々、夜の間はほとんど鳴かなかった蝉だ。
 おなかで音を共鳴させているから
 羽をこすり合わせたりする虫と違って、
 湿気があってもさほど音は悪くならないとは思う。
 
 でも・・・
 彼らは夜も目が見えるのかしら?

 真っ暗なところで鳴かなかったわけだから
 (たまにギッと音をさせたりはするけれど)
 いくら電気が普及して明るくなったとしても、
 お互いのことがわかって自由に飛ぶことが出来るほど明るい夜は少ないのじゃないかしら。
 
 いくら一生懸命アピールしても、
 メスが自由に飛んで来られないなら
 鳴いても鳴いても鳴き損なんじゃないかしら?

 たった数週間〜1ヶ月程度が寿命のセミ達。
 朝も晩も休みなく鳴くことで逆に寿命を短くして、
 巡り合いの機会を減らしてしまってはいないのかしら?
 他人事ながら私はちょっと心配になる。

 煌々とした明かりが変えたのは、蝉の生活だけじゃない。
 我が家の周りのカラスはたまに夜も飛ぶ。
 鳥目の筈なのに、夜の中から羽ばたきの音がする。
 暗いところから明るいところへ。
 時折、コンビニのゴミ箱に頭を突っ込んで食糧を捜している。
 クワァクワァと大きな声を立てて夜空にカラスが飛ぶのは、
 なんだか非常に不思議な気がする。

 今はまだ、夜飛ぶカラスは少ないけれど、
 これから増えたらどうなるだろうと気にかかる。
 気づいたところ、気づかぬところで影響が出ている生き物は本当にたくさんいるんだろうな。

 人間だって、昔は22時就寝の家も多かった。
 今では聞くだけ睡眠時間が心配になる。

 小学生が塾通いで0時近く・・下手したらもっと遅くに帰ることもある。
 私だってそうだった。
 学力アップとか、受験させなくちゃとか、
 塾に通う理由はいろいろあったと思うけれど・・・
 「夜道が明るくなったので」
 これも子供の夜歩きを納得しちゃう理由のひとつであったかもしれないな。
 
 明るくなった夜は、人の生活も他の生活もきっとたくさん変えている。