しけった花火に火をつけたらば・・・

 暑い日は、花火をしたくなる。
 別に花火をしたからって涼しくなるわけじゃないけれど
 パチパチと音を立てて散る火花を見ていると
 不思議と暑さが気にならなくなる。
 これも風鈴といっしょ、一種の文化的暑気払いかな。
 
 風鈴を知らない人の前にぶら下げても
 ただうるさいだけ。
 花火は日本で夏だけど
 世界では年中花火を上げようとしている。

 シーズンがある日本の花火職人達は
 世界でも有数の芸術的花火職人集団で、
 シーズンでないときは世界を飛び回ったりしている。

 日本で花火の季節が夏になったのは何故なのかしら?
 夏が一番湿気が多いから?
 火がついても燃えにくいから?
 日本の花火みたいな仕掛けの仕込が必要なものは準備期間が長いけど、
 一番短いシーズンにパッと消えるが粋だから?
 それとも単になんとなく?
 うーん、誰か知ってる人はいないのかしら。

 花火と言えば、昔ひどい目にあった。
 正確に言えば花火が悪いわけじゃなく、こちらが悪いわけだけど。

 今の家に越してきたばかりの頃。
 夏休みの退屈なある日。
 私は自分の部屋を物色して、本棚の立て付けの悪い引き出しを開けるのに成功した。
 本棚は、確か父の実家か、前の家から運んできたもの。
 その引き出しが開くのは最低で1年半(もちろんそれ以上だったわけだけど)、
 最高で・・・・20〜30年の月日が経っていた。
 
 引き出しにはたくさんの花火が詰まっていて、
 小学生の私の目にはきらきらとした宝石みたいに思えた。

 いつも買ってる小さな花火セットじゃない。
 打ち上げ花火も、棒の花火もいっぱい、いっぱい揃っている。
 きっと誰かが入れたまま、忘れていたに違いない。
 (今から思えば大変危険な棚の中身だ)
 とにかく嬉しくなって母を呼びたてた。
 「お母さん、お母さん、今夜は花火しよう!!」
 喜びは母にも伝染した。
 「うわあ〜すっごい、楽しみね〜」
 
 夕飯の間も、話は花火のことばかり。
 「今日は風がなくてよかったわね」
 「バケツもって行かなくちゃ、どこにあったかな〜」
 「あ、ろうそく、ろうそく」
 二人とも
 かなりノリノリだった。

 そして夕食後、悲劇は起こった。

 打ち上げ花火はとりあえず置いておいて
 何本かを楽しんだ後、
 ある棒状の花火に火をつけた。
 ・・・が、しけっているのかなかなか火がつかない。
 根気よく火の上に花火をかざしていたら
 
 突然、
 パン!と大きな音が響いた。
 空気が揺れた。
 一瞬のうちに周りが煙だらけになって
 耳がキンキンと痛んだ。
 耳にずっと、ピーンとかキーンという音が響いて痛い。
 母の声が聞こえない。
 母も私の声が聞こえないようで二人して大きな声で叫んだ。
 「大丈夫?何が起こったの?」

 しけった花火が暴発のようなことをしたらしい。
 急遽、私の発掘した宝物はバケツに漬けられ
 処分されることになった。
 
 私達の耳は翌日なんとか調子を戻した。
 事の起こった晩は、叫ぶより筆談の方が早かった。
 父は私達を考えなしだと叱った。
 
 あの日悪くなった私達の耳は、特に後遺症も出なかったが、
 もし打ち上げ花火で同じことが起こっていたら
 耳は治らず、やけどを負っていたかもしれない。

 もし、あなたのうちで去年の花火を発掘するようなことがあったとしても
 決してやってみようだなんて
 ゆめゆめ思われませんように。
 ましていつのかわからないものなんて・・・。

 その年の花火は、できるだけその年のうちに・・・