ボンネットの卵焼き

ざっと水を撒くとアスファルトの上から蒸気があがる。
 しゅわしゅわという音が肌に絡み付いてくる。
 花に水を遣る際の湿気は、一瞬むっとして、
 でもすぐ
 ひんやりとして気持ちがいい。

 撒いていると、打ち水効果でスゥっと風が滑り込んでくる。
 熱い地面+水→水蒸気→上昇気流→水蒸気が消えた隙間に風滑り込む。
 あまり他の国では打ち水って聞かないけれど、
 これはやっぱり水が多い日本ならではの文化なのかな?
 
 流れてきた空気は、
 皮膚の上に溜まった湿気(水を)
 吹き払い、気化熱としてこちらの体温も奪ってくれているのじゃないかしら?

 打ち水をした上を行く人は
 目じりがちょっと、一瞬ゆるむ。
 こちらも少し心が緩む。
 ありがとうと言う人もいて、朝から妙にいい気分。

 一晩のうちにひび割れて
 乾ききった地面にホースを向けると
 人が飲むのと同じような音を立てて水を吸い込んだ。
 昨日は38度を超えたところもあったらしい。
 
 地面も花も、酷く渇いていたことでしょう。
 
 暑い日が続く。
 そのまま溶けてしまうんじゃないかというほど熱くなった車に水掛けながら、
 父にひどく怒られた夏を思い出す。

 あの夏も暑く、
 私は毎日自転車に乗り、近くのプールに行っていた。

 いつもより
 朝から暑かったある日。
 冷蔵庫から卵を1つ持ち出した。

 ごはんでは、遊んでいけないと固く言われていたのだけれど、
 車のボンネットに1つパカリと割った。

 お定まりのせりふとして
 「地面で目玉焼きができる」
 が、あった頃。

 あの頃の車は今より平らでカクカクしてて、
 卵をのせても滑って落ちることは無かった。

 1時間、2時間、3時間・・・
 卵はなかなか固まらない。
 白く濁りはするのだけれど、でれーんとして目玉焼きのようにはならない。
 (今思えば、ボンネットの上にあるうち傷んでいたかもしれないけれど)
 5時間、そして6時間。

 子供は昼にしたことすっかり忘れて
 家でパクパク晩御飯。

 翌朝、父にたたき起こされ
 小さな私が見たものは、
 埃まみれの目玉焼きのなりそこね。

 しっかり固まっているわけでもなく、
 朝方、からすが突っついたようで
 車はボンネットに傷がちょこちょこ出来ていた。

 情けなくボンネットにへばりついてる姿にがっくり。
 怒られ、掃除を命じられるも・・・・
 油を敷かなかったので卵は中々綺麗にならない。

 子供のこと。
 そこらへんにある道具を使って
 卵をごしごし上からこすった。
 子供は、集中すると周りが見えない。
 
 卵が無くなって気が付けば、
 ボンネットに大きな傷が増えていた。

 改めて父に怒られたことは言うまでもない。
 夏になると、思い出される。
 
 「目玉焼きは車で作るものじゃない」