夜歩き

 降ったり、止んだり、定まらず。

 夕方を過ぎて、屋根がまるでトタンのように
 ばらばらと音を立てだした。
 どん、どん
 と、大量の水を上にばら撒くような音がして、
 しばらくするとしんとしている。
 で、また少しすると、どん!

 近づいているって言う台風7号と関わりがあるんだろうか?
 まるで降って止んでと雨が兎のように跳ねているよう。
 降っているんだか止んでいるんだかわからない日を狐日和というけれど、
 これ、狐日和と呼んでいいんだろうか?
 「雨が賑やかだな」って外に出ると、地面は濡れているのに水は落ちてこない。
 なんだか狐につままれたようなきがしてしまう。
 だから、狐日和というのかな?

 雨は、降ってる時もいいけれど、降った後もとてもいい。

 親が出かけているのをいいことに
 本屋の名目で夜の公園に繰り出した。
 目当ての本はあったけど、
 ほんとは無くても別にいい。
 
 街灯に照らされた公園は
 昼間の公園とはまるで違う。
 
 黒く光る水溜りに
 灯りがちかちかと反射する。
 踏みしめると一歩ごとに杉の葉の清しい香りがする。
 土の甘い匂いがする。
 散々雨が降ったので、空気に水分が飽和状態。
 じっとりとした空気は、香りを、雰囲気を、時間を、その場にとどめるようで面白い。
 濡れた道が、灯りを映して生き物のように光る。
 公園には人気が無くて、
 羽の濡れた蝉の声が、いつもより低く感じる。
 あちこちの梢から雨だれが、前で、後ろで、遠くで
 ぽた、ぼた、とん、たん、と音の万華鏡のように落ちている。
 
 前を行く2人連れが、水溜りにはまってしまって笑っている。
 せっかく足元に水が無いか、確かめ、確かめ歩いていたのに。
 と、楽しそうにくすくす笑う。
 
 うっかりこちらも笑ってしまって、
 お互い顔を合わせてまたくすくす。

 雨の日は、幼稚園の砂場のコミュニティーを思い出す。
  
 夜中の20時を過ぎた時間、
 目当ての本を手に入れ損ねた帰り道。

 ハンサムな欅と色っぽい桜の間を通りながら考えた。

 こんな時間、公園で1人歩けるってやっぱりすごいことなんだろう。と。

 一昨年、台湾へ行ったとき
 夜23時まで女の子の1人歩きも大丈夫な雰囲気ではあったけど、
 公園1人は行けただろうかと考える。
 行けたかもしれないけど・・・どうなんだろう。
 
 観光地だけど、ベースもあるしハワイの公園はきっと止めちゃう。

 フランスは・・・・昼間だったらいいけどね。
 
 思い立ってふらりと夜の公園。
 そんな贅沢はきっと他ではほとんど出来ないことなんだろうな。

 公園の池面には
 アメンボか枝から飛んだ雨の名残がいくつも丸い輪を描いてた。
 



 
 「大量発生につき、申し訳ない。」


 夕飯時、母と祝杯を上げた。
 この間家族で飲んだワインの残り。
 グラスを合わせると
 ライトの灯りで、テーブルクロスに紅い光が散らばった。

 今日のお祝いは、
 「4週間お風呂場にアリが現れなかった」ため。
 
 我が家は今年、アリの当たり年だった。
 彼等の繁殖力と来たら、
 並大抵のものじゃない!
 
 白じゃないのは救いだけれど、
 黒だって気に食わない。

 惨禍にあったのは洗面所。
 最高のリラックス空間の筈の
 お風呂に・・・・プカプカ。
 歯を磨いていると、洗面台をチョコチョコ。

 だれも食べ物を持ち込んでもいないのに・・・
 彼らはドンドン増えていく。
 
 鏡面にも、天井にまで這えるのだ。
 まったく、どんな足をしているのだか嫌になる。

 母はあまりの大発生に
 アリメツの会社に直接電話して
 大量にアリメツを買い込んだ。

 そうして
 アリの通り道、人の足が行かないところに
 毒の蜜を置いた。

 どこから入ってきたのか、住んでいるのか
 毎日毎日毎日・・・・・・・・
 アリメツの中が、周りが
 真っ黒になった。

 アリからしたら凄まじい大量虐殺。
 申し訳ないけれど、
 虐殺されている意識を彼らが持っていないことを、ご冥福を祈る。
 こちらの都合で駆除するわけだから・・・・

 今日はアリメツ大作戦決行4週間目。
 アリを見かけなくなって1週間。
 これだけ経てば恐らく大丈夫というのが母の見解。

 。。。。。。。。。アリメツの毒が女王アリまで行っていればそうかもしれないけれど・・・・
 アリの寿命は2〜3年じゃなかったかしら・・・
 
 とは言えなかった。
 私だってもういいと、信じたいのだもの。
 
 それにしても、
 「3週間で産卵が終わる」なんて初耳。
 一体どこで吹き込まれてきたんだろう。
 結果はそのうちわかるはずだとほろ酔い頭で考えた。

 本当は殺さず、相談に基づき
 巣ごと移動してくれたら・・・ありがたいけど、そういうわけにもいかないものね。
 
 水で流されたって
 水が無くなれば体を伸ばして帰ってくる。
 ダメージ受けても、他のアリから体内の虫をもらって元気になる。
 (ほどほどなら)熱さにも強い。
 今度のことで
 よ〜くわかった。
 彼らはしぶとい。

 人間がいれるかいれないかの状況になっても
 彼らはしっかり生き抜くはずだ。
 
 さ〜て、しぶといシャトル計画。
 なんだか万全じゃないようだけど・・・
 今日は飛ぶんだろうか??