256匹(頭)、ごくり。

 うつぼより不細工(うつぼはスマートだ)
 オコゼより・・・個性的。
 
 去年の台風で上流から流されてきた
 256匹が見つかったらしい
 特別天然記念物おおさんしょううお・・・
 「ぐるり」とお腹がなる気配。
 
 両生類なんて気持ち悪い!
 大体あの体、ぬめぬめしてて
 変な色!
 岩みたいで、目がくぼんで
 鈍重そうで・・・・・・
 うん、そうね、そうね。
 確かにそうね。
 でも、私・・・・
 食べてみたいのよ!
 
 いつか読んだ井伏鱒二のエッセーを思い出す。
 道端に丸太のように転がっていた大山椒魚を発見して
 家に持って帰ったものの、
 調理法がわからない。
 もう息も絶え絶えだからよかろうと棒でポカリ。
 家中に山椒のような香りが満ちて、
 ああこれが大山椒魚と呼ばれる由来かとしみじみ。
 (大山椒魚からしたらたまったものではない)
 香りはともかく
 うまいうまいと何かの本で書いてあったので、食べたくってしかたがない。
 とりあえず煮物にしてみると
 硬くて硬くて噛み切れない。
 せっかく珍しいものを手に入れたのに・・・
 と、井伏先生がっくり。

 次の日、再挑戦と鍋に火を入れると、
 大山椒魚のお肉はトロトロとやわらかく、
 噛むほどに爽やかな山椒の香りが
 体中に広がったとかとか。
 
 「再加熱しないと柔らかくならないようだ」
 とのこと。 

 世界最大の両生類「大山椒魚
 ヨーロッパではほんとの化石しか残っていない生きた化石
 その化石はずうっと、ノアの箱舟時代に溺れ死んだ人の化石と思われていたらしい。
 おおこわ
 寿命は長くて、100年物で1.6m位と言われている。
 1.6・・・・・年取ってくんだから縮んだっていいのに(負け惜しみ)
 伸びてくばかりは羨ましい。
 わさびと一緒で、綺麗な清流にしか棲まないのでずいぶん迫害されている。
 人として、申し訳ない。
 とにかく、今じゃ触ったって罰せられる
 貴重な生き物。

 井伏先生の時代も殺しちゃいけなかったようで
 先生はそれからずっと、「また食べたい、あれはうまかった」
 と何年も偶然死んだばかりの大山椒魚を捜し続け、ついに見つけた時には
 20〜30人を集めて大山椒魚を食べる会をしたらしい。
 
 読んでるだけで、ご相伴させてくださいと願いたくなる。
 
 井伏さんは「黒い雨」が読書感想文の課題図書になったりしているから
 固くて暗いイメージがあるようだけど
 私が見たところ
 「お茶目で大らかな、愛すべきお酒のみ」。
 「酔いどれ詩集」なんかも最高で、
 熊が雪崩の上であぐらを書いていたりする。

 漢詩の翻訳も
 漢字をみて、訳をみると
 「まったく違うようで、最高にしっくりくる」
 そんな言葉をあてはめている。
 こんな人とお酒を飲んだら、
 お酒によってるんだか、
 話に酔うのだかわからなくなりそう。
 
 1度でいい、井伏さんと話せるなら・・・・
 大山椒魚を味わうのはあきらめます。
 でも、井伏先生はもうとっくにいない。
 さすがに捕らえに行く気はないけれど、
 「いつか食べれたらいいな」の気持ちは
 ずうっとずっと持ってるつもり

 お金の問題ではなくて
 食べられない、でも食べてみたい。
 そんな憧れのもの
 きっとみんな持っている気がする。
 
 閉まってしまったレストラン
 大好きな人の手料理
 絵本にしかない不思議なメニュー
 憧れのもの、なんですか?

 *大山椒魚の試食は禁じられています。