ブーケの香り

昨日、大好きな友人から花が届いた。
 白とピンクを基調にした、とても良い香りのブーケに、顔をうずめるとなんだか涙腺が刺激された。
 私の大好きな彼女が大好きな人と結婚した。

 お互いのご両親のみという式を挙げた彼女は私に彼との写真を送ってくれた。

 綺麗なウエディングドレスをまとった彼女が、咲き初めの白薔薇のつぼみのようで、
 なんだか妙に目に染みる。
 携帯の画面とブーケを見つつ、思い出の中を漂う。

 北海道、万博、軽井沢・・・あちらこちらへ一緒に行ったね。
 数え切れないほどカフェに行き、沢山話して、悩んで、笑った。
 しゃべってもしゃべっても、話題に困ったことなんて、一度もない。
 今までに電話で話した時間だけでも、合計で何ヶ月、何年話し続けた換算になるのか、
 私達はどんな時でも時間のなさを残念がってばっかり。
 
 意見の合わないときはとことん話して・・・でも、喧嘩になったことはなかった。
 
 大好きな、大好きな彼女だから幸せになって欲しい。
 気配り屋さんで、いつも一生懸命で、頑張りすぎるほど頑張り屋さんの彼女だから、
 その一生懸命さをそっと緩ませてくれるような人がいいと思った。
 大切にしてくれる人が良いと思った。
 
 そして彼女はそんな人に恋をした。
 
 婚約してすぐの頃、彼女が照れながら婚約の日の写真を見せてくれた。

 今までに見たことがないほど嬉しそうな彼女と、
 とろけそうなほど嬉しそうな笑顔の彼がそこにいた。
 
 彼女にこんな素敵な顔をさせる人。
 彼女との婚約を、こんなに嬉しそうにしてる良い顔の人。

 彼にあの表情をさせたのは彼女で、彼女にその表情をさせたのは彼。
 この人ならば、と、思った。
 彼女は巡り合ったのだと思った。
 
 笑う二人の雰囲気がとても素敵で、
 この人ならば大切な友人をきっと、ずっと、大切にしてくれると思った。
 
 それから、長いようで短い時間がするすると過ぎた。
 
 北海道旅行も、サプライズパーティーも、沢山した長電話も、
 過ぎてしまえばあっという間で、彼女はお嫁にいった。

 ブーケの届く日、彼女はもう東京にはいない。
 大好きな彼女が幸せになるのが待ち遠しくもあり、
 気軽に会えなくなるのが淋しくて1日がもう少し長ければよいのにとも思った。
 
 「家族以外呼べないから貴女にブーケを・・・」
 そう言ってくれた彼女の気持ちが嬉しくて、届いたブーケが本当に素敵で、
 受け取った時の重みに彼女が結婚した事が改めて思われて・・・
 
 淋しいような、嬉しいような、
 過去の色々な思い出がないまぜになって迫ってきて、涙が出た。
 大好きな彼女を幸せにしなかったら、
 二人でちゃんと幸せにならなかったら承知しないんだから。
 遠く、東京にはもういない彼女の彼に心の中で呟く。

 大好きな彼女の幸せと、すぐに会えなくなる淋しさと。
 ブーケの素晴らしく良い香りを楽しみながら、
 これからずっとこの香りと会うたびに、
 この嬉しさと一抹の淋しさとを思い起こすのではないかと、そんな風に思う。