街灯ともる

夜。
 寒さでふと、目がさめた。
 カーテンの向こうがほんのりと明るくて、透き通るような虫の声が光っている。
 秋の声は薄い花弁を幾重にも重ねた花が開いていくのを息を潜めて目撃しているときに似て
 音がするのにとが無いような気がする。
 小さな風が窓の脇を通り、薄い硝子がカタカタと木枠ごと揺れた。



 ヒーターが好きではないから、もう少ししたら息が白く染まるだろうか。
 そんなことを考えながら、カーテンをそっと引いてみた。
 布団の中で温まった足は、冷たい床に降りた途端にキュッと指を強張らせた。



 窓辺に寄ると真っ暗になった家々の窓が見えた。
 ほんの数時間前までは、どこの家にも明かりが灯っていだろうに、
 深夜となった今、街灯だけがポツンと白く月灯りに対抗している。 
 星が見えるかと顔を窓に寄せると、窓はぼんやりと白い膜を張り、
 街灯の周りだけがまるく虹色に光った。



 誰かと話したいわけでもなく、話したくないわけでもない。
 ただ、漫然と起きてそこでぼぅっとしていたい。
 特段の理由もなくそんなことを感じながら。
 
 じっとしていたら寒くて毛布を引き寄せた。
 それから、毛布を抱いてどれだけいたのか。
 我に返ると、足がすっかり冷え切っていた。
 
 外の風景に捕らわれたままのろのろベットに潜り込む。
 微かに残る温かみにじわじわと足がほどけて行くのを感じながら
 ポツンと灯る街灯の夢を見た。



 街灯は、水平線が見えるほど大きな氷の上に立っていた。
 氷の上に街灯以外のものは何にもなくて、空にはやっぱりお月様がぽかっと浮かんでいた。
 
 そして街灯自身の照らす薄い影が1本、黒々としたお月様のものが1本。
 2本の影が重なりもせず氷の上に延びている。
 
 そんな夢。



 気づけば部屋に朝が来ていた。