「あれ」はどう駐車するのか?

「あ!」
 運転席の彼女が叫び、急ブレーキを踏んだ。
 「見た?」言いながら彼女が助手席の窓を指差す。
 「あ!」
 思わず助手席の窓から半身を乗り出し、見送り、「見た!」と叫ぶ。
 
 「あれ、『あれ』よね」と運転席を振り返る。
 「夢じゃないよね、ほんとの『あれ』よね!」と運転席の彼女の目がきらきら光る。
 さっきまで、二人の間に少し退屈した空気が流れていたのに、一転。
 一気に狩猟モードになってしまう。
 「ねぇ、私もう一回見たい!」と言うと「だよね!」と彼女。
 「なんでここ、Uターンできないの〜」と、叫びながらきょろきょろと彼女は
 「あれ」を追いかける方法を探す。



 私は、窓から乗り出し目標がどちらに進むか確認作業。
 そして、途中で見失う。
 
 ふたりして、急に刑事ドラマの追跡気分になりながら
 徒歩だったら、絶対二人でタクシーに乗って追っかけてるねと話ながらも
 やっとのことで逆方向に向き直ると・・・もう「あれ」がいない。
 
 二人でどこかの角を曲がったんじゃないかときょろきょろしながら
 「「あれ」、確かブッシュが乗っていたよね」
 「確か小泉さんも・・・」
 「韓国公道走れるんだね」
 「日本は?」
 「日本は確かダメだったはず」と、会話を交わす。
 「何か」は、わかっているのに名前が出ずにむずがゆい。
 「確か今世紀最高革命的の乗り物だっけ?」と、私が聞く。
 「そうだっけ?なんだかわかんないけど、変わってるよね」と彼女。



 芝刈り機みたいな小さな「あれ」は、20代の男性をのせ、
 時速20キロ程でどこかへ消えてしまった。
 10分近く探したけれど、「あれ」は二度と見ることが出来ず
 彼女がポツンと「夢じゃなかったよね」と呟き、
 「夢じゃないと思うわ」とぼんやり返した。



 帰国後、パソコンで「あれ」の名称をチェック「セグウェイ
 「人間の移動形態を変える革命的な製品」、それはそう報道されていた。
 夏はともかく、秋〜冬のこの季節にあんな寒そうな乗り物に乗る人がいるとは
 おもわなかった。
 世のなかは広い!



 それにしても、あれを駐車するときは自転車のようにチェーンを使うんだろうか?
 比較的簡単に盗まれてしまいそうな大きさなのだが・・・
 そして、あれに乗ってた人はいったいどういう人だったのか・・・・
 ちょっと気になる。

のんべ気取ってちびちびと

すこしくすんだ赤い葉の間からつややかな紅い実が覗いている。
 金木犀の香りも遠くなってきて、土がまた甘い香りを醸しだしてきた。
 赤いテーブルクロスの上、あかいりんごが3つ。
 冷蔵庫を空けたら赤ワインがあった。
 
 午前10時。
 ROMBAUERのZINFANDEL2002。
 日頃朝から飲むわけではないけれど・・・・
 のみたいときは、あるものだ。
 高いのか安いのかわからない。
 家にあるワインはそれが良い。



 グラスに注ぐとデザートワインをおもわせるような甘い香りが口元を緩ませる。
 普通の赤よりも少し茶色がかっていて「品種の違いで色は変わるのね」と、
 当たり前のことなど思う。
 飲んだ瞬間は軽くて、舌に触れるとぐっと重くなる。
 甘くてちょっとスパイシー。
 口中、喉の辺りまでの空間にふっくら甘い香りが立ち込めて、ピリッとしたのが
 残って抜けて、心地よい酔いが回って軽い溜息。
 
 昨日の晩酌かしら?
 開けたて、父にご相伴しておけばよかったかな、と、そこはかとなく思わせる味またコクリ。
 ちびちび飲んでいるものだかあら、1時間経ってもグラス空かない。
 のんべ気取りもたまに良し 
 
 本当はシャンパンも飲みたいところだったけど、
 1人で開けたら不味くなる。
 これもなかなか美味しいし・・・一人でほんわり酔いながら、また一口と。
 昼にお酒も乙なもの

「もう遅い」は本当か?

 「実は・・・」と、電話の向こうで彼が言う。
 
 勉強はたくさんしてきた。
 社会的な地位基盤も頑張っていたら付いてきた。
 でも、ふと考えるとみんなに比べるて恋愛経験が少なくて、
 これからも他の人との差は埋められないのではないか。
 自分に自信がなくて、そう、悩んでいるという。
 
 深夜2時。
 
 丑三つ時はお化けが出ると言うけれど、心の中の言葉もポロリと出てくる。
 眠い眠いと思いながらも、夜は語る人にとても優しい。



 28歳。
 まだ30にもならない彼がそんな厭世的なことを呟く。
 とても気のつく優しい人で、周りをいつも気遣うあまり、
 ワイワイとした場ではお酒を飲んで盛り上げようとしたりする。
 メールもまめだし、外で飲もうという時も、
 寒かったり雨だったらと別のお店を考えたりしてくれる。
 靴を脱ぐようなお店のときは、事前にちゃんと伝えてくれる。
 大好きな友達を照れながらもちゃんと好きだという。



 美味しいもの好き、友達好きで、楽しいことが大好きで
 他人をとても大切にする人だ。
 
 なのに、どうも1味足らない。
 「いい人」で、あと1歩なんだけどと、
 友人ながら思うのだけど、それは感覚的なものだから、具体的に「どう」と教えられない。
 残念ながら。
 その上、私自身、恋愛よりは友達になってしまうという性質だから困ってしまう。
 なんて言ったら良いのか・・・。



 好きな人に好きって言ってもらえるのは奇跡よ!
 結婚している人たちは奇跡の体現者よ!と私は叫び・・・
 考えて、言った。



 「今まで・・・・告白されたことはある?」
 「・・・あるけど・・・」彼は少し考えて言った。
 「けど?」



 私は追跡を始めた。



 「好きな子じゃなかったし・・・」
 「だから?」



  彼は誰も彼も好きな人に告白されていると思っているのだろうか。



 「好きな子からじゃなくても、告白されたことあるんでしょ?嬉しくなかったの?」
 「嬉しかったけど・・・」と彼がもぞもぞっと呟く。



 だよね、と笑うと、彼も電話の向こうで「うん」とうなずく。
 

自分を好きな子がいるってことは、自分にもちゃんと魅力があるってわかってる?

 聞くと、彼は初めてそんなこと初めて考えたとばかりに静かになって、そして
 「・・・そうかなぁ」と訊いた。
 で、「あたりまえじゃない」と、笑ってしまった。
 

彼は本当に自信がないのだ。

 「きっと一生彼女なんかできない。絶対駄目だ」と言うのだ。



 私が今度初めて友人を彼に紹介しようと思っているにも関わらず、だ。
 今まで、女友達を誰かに紹介なんてしたことがない。
 

でも、彼と仲良くなって「あ、あの子を紹介したい!」そんな風に思って、働きかけた。

 にも関わらず、だ。
  
 これはひどい
 そこで「ねぇ、私今度友達紹介したいって言ったでしょ?
 そんなダメダメだって思ってたら大切な友達紹介したいなんていうと思う?」
 
 こちらの人を見る目はそんなに駄目だと思う?と、若干のプレッシャーを掛けつつ訊いてみる。
 
 彼は慌て、そして、照れて「ありがとう」と言った。
 御礼なんていわれることは言っていない。
 良い物は良いのだから、その辺は自信を持ってもらわないと・・・と、ちょっと偉そう
 に言って、こらえきれずに笑ってしまった。
 
 「なんだよー」と、彼は拗ねた。
 
 そこで笑ったまま、「大体においてなんだ!」と、
 私は彼に説教をすることにした。
 
 今、28だよね。
 社会人になって5年。
 土日は休みで、飲みにも行ってて、普通のサラリーマンよりは時間も使ってるし、
 出会いもしてるよね。
 ってことは、社会人になってからは普通の人と一緒だよね。
 
 と聞くと「うん」と返ってくる。
 そして、なんていうか恋愛だけじゃなく人付き合いの経験値が
 圧倒的に不足してて・・・と、言う。



 そうは言っても、浅く広く付き合っていたって、自分が本当に心を許せる人に会えなければ
 経験は深まるのかな?
 人付き合いも結論的には量より質だから・・・というと「そうかも・・」と考え出す。
 (実際のところ、浅く広くでもいいから、自分とひっかかりそうな人と出会うことが
  一番大切。会うのは狭くてもいいから、響く人と会うことそのものが難しい)
 「でも、みんなより10年以上経験が少ない」と言う。



 そこで「わかった」と、私はおもむろに言う。
 考えてみようと、誘う。



 社会人の5年間はみんなと一緒だから抜いて良いよね?
 「うん」
 じゃあ、子供の頃から考えてみよう。



 5歳までは海のものとも山のものともつかないよね、初恋はあった?
 「あー幼稚園の時かな」



 じゃあ、とりあえず5歳まで抜くね。
 「うん」



 小学校の時は・・・今はわからないけど、付き合っている人なんてまずいなかったよね?
 「うん」



 じゃあ、小学校も抜くよ。
 「?うん」



 ん〜中学校も恋愛とかって実はみんなそんなしてないよね。
 「そうだね」



 じゃあ中学校もなしで・・・・高校ね。
 
 高校って3年間だけど、実は付き合ってる人って少なかったりするよね。
 「うん」
 (実のところ、彼は男子校出身。そして私は出身校が同じ別の友人から当時付き合っていたのは
  1クラスに5人位だったととっくに聞いてしっていた)



 だいたい付き合ってたのってクラスに5人くらいでしょ?
 「あ〜、そうだったかも」
 
 じゃあ、みんなってわけじゃないから一応高校も抜くよ?
 「うん」
 
 大学だと付き合う人たちが出てきて・・・
 でも、案外1年の最初からっていうより1年が半分過ぎたり、
 2年になってから付き合い始めた人多かったよね?
 「うん」



 じゃあ・・・みんなとの差ってせいぜい3年位なんじゃない?
 「あ・・・」
 
 3年って土日がしっかり取れていても挽回できないほどだと思う?
 「・・・・思えない」
 
 だよね、まだ28。
 30にもなってないのにおしまいなんていうのは早くない?
 笑うと、彼も泣きそうな声で笑った。



大学のとき、楽しかったんだよね。

 じゃあもっと短いよね。



 そう言うとと電話の向こうの彼の笑い声はもう少し歪んだ。



 私が言ったことは綻びだらけなのだけど
 夜の電話はそんなことさえ許される。
 
 もう遅い。
 もう駄目だ。
 が、本当にそうなのか?は、わからないものだと思う。

今を一緒に

目覚めると肌寒さにぶるっと震えた。
 そろそろ布団も秋冬に向けて衣替えの季節のようだ。
 
 外へ出ると今日は蝉の鳴き声が全く聞こえない。
 1匹くらいいるのではないかと白く曇った空を見上げると、
 どこからか金木犀の香りがした。
 やわらかい土の匂いもする。
 
 もうすっかり秋の中にいるのだと数歩歩いた瞬間、
 ビビビビビと、地面で油蝉が旋回しながら大声を上げた。
 驚いてひっくりかえった声が勝手に喉から出てしまう。
 夏はまだ終わりきっていないと蝉は威勢を上げた。



 こんな寒い日は家にいたい。
 そして、1人でいるより誰かと話したいと思うのだろう。
 朝から2時間おき程で電話が掛かってくる。
 1件終わるとまた1件。



 まるで電話が終わるのを見計らったようなのに、みんなその時が1コール目。
 不思議に時間が噛み合っている。
 休日なのに1件も電話は来ないなんて日もたまにあるのに、
 来るときは電話とメールがどんどんやってきて「久しぶり!」を何回言うのだろうと
 首をかしげる時もある。
 
 きっとそれは逆の事もあるんだろう。
 私がAという人のことを思い出すとき、面識もない別の人もAという人を思い出している。
 誰かを妙に思い出される日、そんな日があるのじゃないかって
 そんな気がする。



 電話をかけとき、相手にとってもちょうど自分が思い出される時だった。
 そんな時はちょっと嬉しい。
 そろそろあの子に電話をしようかな?なんて時に相手から掛かってくると
 顔が尚更ニコニコしてしまう。



 「懐かしい」と言わないで、「今に」いるのよ。
 友達だけど「過去」じゃないのよ。
 
 そんなことをお互い言わずに確認している。
 そんな気がする。 

昨日、猫が死んだ

 昨日、一匹の猫が死んだ。



 灰色の柔らかな5〜6センチの毛が全身を覆っていて、
 遠目からもとても賢そうな綺麗な顔をしていた。



 黒々としたアスファルトの上、行き交うヘッドライトに照らされた中央の白線の上で
 猫はぐったりと体を弛緩させ横たわっていた。



 猫の側を通る車は、灰色のふわふわとした塊が猫だと気づくとギョッとするのだろう。
 一瞬速度を落とし、猫を轢かないよう少し除けながら去って行く。
 もしかしたら止まろうとした車もあったのだろうが、次々とやってくる後続車の波に飲まれていった。
 
 「どうしよう」「何か出来るだろうか」「でも車が・・」「何が・・」
 一時より少し長く逡巡していたその時。



 道端に寄せてあった黒塗りのタクシーから30代半ばほどの女性が二人、
 ダンボールを持って飛び出してきた。
 
 いつからタクシーが停まっていたのかは、わからない。
 彼女たちのタクシーが猫を轢いたのか、それとも猫を見つけて駆けつけてきたのか。
 それもまったくわからない。



 ただ、彼女たちはタクシーの後方のトランクから2枚のダンボールの板取り出すと
 凄まじい勢いで行きかう車の群れの中へ果敢に飛び込んでいった。
 
 1両目の車が慌てて停まる。
 突然の横断に怒ってクラクションを鳴らそうとする。
 その視線の先に倒れた猫を見つけ、振り上げた手をゆっくりとおろし、
 どうしたらいいのかと目を右に左に軽く動かす。
 事情を知らない後続車がクラクションを鳴らし、1両目の運転手の彼女は猫の下へ行く
 2人を避けながらのろのろと道を行く。
 2両目の車もまた、同じように・・・。



 2人の女性は二枚のダンボールを合わせて猫を道から持ち上げようとするが、
 側を通る車に阻まれ、上手くしゃがむことさえ出来ない。
 
 「何かしなくては」思いに背を押され、近くのガードレールの切れ目に走った。
 思ったのは私だけではなかった。
 道の反対側から、白シャツにベージュのズボンをはいたおじさんが飛び出してきた。
 そして、猫と女性たちの前で車にぐっと立ち向かうと交通整理を始めた。
 
 おじさんが車を停め、女性たちが猫を持ち上げ道端へ運ぶ。
 おじさんはそれに従い道端へ行き、まっていた車たちに停止解除と手を回した。
 車は猫と女性たちがいた道をスイスイと走っていった。
 
 猫の腹部は見つけてから一度も動くことは無かった。 



 私は何も出来なかった。
 猫と女性とおじさんがいる道端へ行くこともできず
 駅へと向かった。



 いったい何ができただろう。
 猫を移動させることも車をとめることも出来なかった。 
 私がお金持ちだったり医者だったりすれば
 すぐに診察してやることもできたし、
 猫を連れて行く際の移動費や診察費を渡すことだってできた。
 
 当然医者ではなかったし、
 財布の中身も昨日は特に無かった。
 何も出来ない人間が行っても邪魔になるだけ。
 私は歩いて行くことしか出来なかった。
 
 何が出来ただろう。

あの3人の方がその場、その時にいたことは本当に良かったと思いながら

 「自分にももう少し何か出来たのではないか」そう思えてならない。

甲子園に・・・

 真っ黒な土に膝をつき、四つんばいになって肘をつき、
 腕をワイパーのように動かして左手に持った袋へ土を入れる。
 両手で地面を押さえつけるように、涙を地面に溢しながら
 必死で土を掻き集める。
 その選手たちの前で薄い緑がかったつばのある帽子にオレンジのリボンをおそろいに
 付けた報道陣が大きなカメラを持ち、地上30センチの選手たちの泣き顔を正面から
 見上げるようにシャッターを切る。



 胸まで黒く染まったユニフォーム。
 黒々と日焼けした顔の中に紅くなった目が見える。
 下を向く肩が、土を掻き集める指が震えていた。



 ピッチャーは最後の一瞬も投げていたいというように
 引き上げながら何度も何度もメンバーと白球を投げ合い、
 悔しさをそのままに泣いている。



 反対側のベンチでは土を集める彼らを複雑そうに見ながら、
 土を集めなくともまたこの土を踏めるのだと喜ぶユニフォームの群れ。
 
 ベンチに入れずとも笑い、叫び、激を飛ばすアルプスの大勢の部員たち。
 彼らが行けなかったグラウンドで勝ち、負けたチームメイトと泣いている。
 
 点差が開き悲壮感漂う顔をしていたピッチャーが、代打の打点に見事に
 顔を輝かす。
 彼がずっと投げていたらどうなったか。
 ベンチにいて、出れるかもしれないと直前まで用意していた部員もいただろう。
 活かされた部員も、出られなかった部員もいただろう。
 勝った側にも、負けた側にも。



 冷静に抑制の効いた球を投げ続けるピッチャー、 
 守備の彼は、難しい球へ伸び上がり、一瞬の迷いも無くホームへとボールを投げた。
 どれだけの苦しさをキャッチャーは受け止めたか。
 遠くへいるか、近くを守るか。
 監督も、部員もみんな必死で、夢中で・・・
 最後の校歌の時にはどちらに気持ちが片寄るのかもわからず泣かされてしまう。



 報徳学園智弁学園の試合はどうなるか、胸が痛くなる切なくて
 とても良い試合だった。
 私は五輪より甲子園の方が夢中で見てしまう。
 平日も見ることが出来たらいいのに。
 
 試合だからどうしても勝ち負けがでてしまうものだけれど
 それが辛くもあるものだけど
 一心に甲子園の為に自分を高めている彼らを。
 その努力があきらかにその血肉なって現れているのをみると
 自然に頭が下がる。



 あの走りや、バットのスイングや、守備はどれだけの継続から生まれた動きなのだろう。
 野球のことはあまりわからないのだけど
 アルプスで応援する人、グラウンドの審判も、選手もみんな心から尊敬しています。



 甲子園という時間は一瞬かもしれないけれど
 一瞬が永遠でもあることを教えてくれるものだと思う。
 
 あぁ、次の週末が待ち遠しい。
 きっとまた泣いてしまう。
 平日の試合もほんとに見られたらいいのに
 

蝉の静けさ、にぎやかさ

蝉の声がにぎやかだと思ったら、今日は涼しい。
 この所、暑いわりには蝉の声が少なく、不思議だ。
 偶然私の周りで蝉が少なかったのかもしれないが、
 蝉にとっても最近の暑さは堪えたのかもしれない。
 
 もし、他の人にとっても蝉の声が少なかったのだとしたら・・・
 これは異常事態を確かに目前にしていることになる。
 
 蝉がいるのに鳴かないということは、子孫繁栄の本能よりも自分が生きていることを
 優先させているということに思うから。
 
 もしそうだとすれば、蝉にとって現在は先のことなど考えられないほどに生き辛い世の中
 ということになる。
 樹液を吸うための木も減り、卵から羽化の前までを過ごす土もアスファルトに覆われて、
 連日の30度越えに熱を吸収しやすい黒っぽい体。
 昨日までの静けさは「やってられないよ」という無言のぼやき、叫びだったのかもしれない。
 
 もしくは・・・
 啼かない蝉が増えているという可能性もある。
 ワニなどが孵化するとき、卵が置かれている気温によって性別が変わるとか。
 セミの雌雄のどちらが多いかなんてわからないけれど、
 もしかしたら啼かないメスが今年は多いなんてこともあるのかもしれない。



 気候によってセミの分布が変わってきていることも理由なのかもしれない。
 蝉について調べていたらこんなページを見つけた。
 http://puh.web.infoseek.co.jp/semiwadai.htm
 この中に書かれていることによれば、クマゼミは午前に啼き、油蝉は昼に啼くとのこと。
 
 で、あるならば。



 暑くなって蝉たちの生息分布の区切りが北上し、アブラゼミが少なくなっているのかもしれない。
 蝉が啼いていると強く意識をさせられるのはやはり暑い昼間だから、いるのに聞こえない、
 啼かないと思うのかもしれない。



 26度、すごしやすい夏の日に
 久しぶりににぎやかな蝉の声を聞きつつドキドキと甲子園を楽しみながら・・